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若く無分別な恋に翻弄されたつぼみの花たち 三角関係の悲劇「新版歌祭文・野崎村の段」 名作偏愛エマキ

産経ニュース / 2024年10月5日 12時0分

絵・いんこせいじん

艶やかな大輪の花と野に咲く愛らしい花。対照的な魅力を持つ2人の女性が愛したのは、同じ男だった。油屋の娘、お染とその店の丁稚(でっち)、久松の心中事件を扱った「お染久松もの」の代表作「新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)・野崎村の段」は、2人が死に向かうより以前に起きた三角関係の顛末を描く。摘んでしまうにはあまりに惜しい、まだつぼみの花たちを翻弄した若く直情的な恋は、子の幸せを願う親の深い嘆きによって、鮮烈に記憶される。

舞台は久松の養父の久作と、病床に伏せっている盲目の女房、その連れ子のおみつが暮らす野崎村(現大阪府大東市)。そこへ奉公先でトラブルに見舞われた久松が実家に帰され戻ってきた。これは好機と、久松を慕うおみつとの祝言を久作が急いだのが仇(あだ)となる。いそいそと支度するおみつの手鏡に映ったのは、久松を追って来たお染の姿。主従関係を超えた道ならぬ恋に落ちたお染は、久松の子まで妊娠している。

田舎育ちの自分とは違い、都会のお嬢様らしく洗練された姿に嫉妬したおみつは邪険に追い払おうとするが、お染も引かず、隙を見て久松に取りすがって心中を決意させる。

そうとは知らず、祝言を喜ぶ久作を仰天させたのがおみつだ。花嫁姿の綿帽子を取ると、髪を切った尼姿。自分が身を引かねば2人は死ぬ覚悟と悟ったおみつは、「うれしかったはたった半時」と涙を流す。

図らずも娘を追い詰め、女性としての未来を奪ってしまった久作の後悔、娘の髪に触れて初めて事態を把握した盲目の母の哀れな嘆きには、どんな慰めも救いにならない。

おみつの決断もむなしく、お染と久松は結局心中してしまう。誰も幸せになれない悲劇へと一直線に走らせたのは、無分別な恋という若さゆえの過ち。それなのに、その悲しみの中で散る花は憂いた姿が美しい。(田中佐和)

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