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こだわりの飲み歩き、京都の「新店情報」を超速報 ウェブマガジン編集長・細井悠玄さん 一聞百見

産経ニュース / 2024年8月23日 14時0分

細井さんが運営する「京都ロジウラTV」(ユーチューブから)

京都市内を中心とした飲食店の新店情報を取り上げるウェブマガジン「京都速報」の編集長を務める細井悠玄さん(44)。ベストセラーとなった男性向けのタウン情報誌の編集長を経て独立し、現在は飲食店を紹介するユーチューバーとしても活躍中だ。大学時代から約20年以上にわたって飲み歩き、現在も取材をかねて訪れる飲食店は年間数百軒にも上るという。そんな京都通の素顔とは。

くりっとした目とトレードマークのハット。カメラにちらりと視線を向け、愛嬌(あいきょう)のある顔に恥ずかしそうな表情を浮かべて「うます(おいしいの意味)」と決めぜりふをつぶやく。細井さんのユーチューブチャンネル「京都ロジウラTV」ではおなじみのシーンだ。

ファンの一人として取材を申し込んだところ、快く引き受けてもらえた。話を聞くと、いつも動画で見ている控えめな姿からは想像できないエネルギッシュな日々を送っているようだ。

情報の鮮度を重視する京都速報には、アルバイトスタッフと2人で週に5本ほど記事を掲載。ユーチューブ用の動画撮影、飲食店向けコンサルティングなど幅広い仕事をこなす。忙しいけれど、「楽しい」という気持ちの方が強いという。

「新しいことや楽しいことを考えて、それを発信することが好きでしたね」

小学校の頃、鬼に捕まらないように高い所へ逃げる遊び「高鬼(たかおに)」に、地面に降りてはいけないというルールを加え、遊具から遊具へと飛び移りながら鬼から逃げ回る「高高鬼(たかたかおに)」を考案して校内ではやらせた。

現在の仕事であるネットや交流サイト(SNS)を通じた情報発信はまさに、その延長線上にある。小さい頃から好きだったことができているからこそ、今を楽しいと感じるのだろう。

ネットやSNSの影響力の大きさは強い追い風にもなっている。「ユーチューブで取り上げたラーメン店に、ニューヨークから動画を見たというお客さんが来たり、京都でのオフ会に山口県に住む80歳のおじいちゃんが参加したいと言ってきたり、影響はすごい」と自身も舌を巻くほどだ。

ただ、ネットやSNSの普及にジレンマを抱えていた時期もある。大学卒業後に就職したのは、京都の飲食店などを紹介するタウン情報誌を発行する出版社。京都が好きだったことや、大学時代から繁華街で飲み歩き、マスコミやエンタメ業界を志望していたこともあり、4年生のときに「正社員になれるかも」との下心を抱き、アルバイトに応募。卒業とともに正社員として採用された。広告営業の仕事をしていたが、本人いわく、「社長のむちゃぶり」で、男性版タウン情報誌の創刊を頼まれ、編集長を務めることに。「秘境酒場」と銘打ち、足を使って見つけたグルメサイトに載っていない店を取りあげるなどしたことが奏功し、京都の書店でベストセラーになった。

編集長業務が軌道に乗る一方で、ネットやSNSが急速に普及したことで、「出版社は厳しいのではないか」との危機感が強まっていった。例えば、雑誌なら新店のレセプションが開かれてから発刊までに時間がかかる。その間にインフルエンサーはSNSや動画で配信してしまう。情報の速さという点では到底かなわないという現実に直面した。

誰もが簡単に情報発信ができる時代の到来を肌身で感じ、「独立すれば、もっと自由に仕事ができるのでは」との思いを強くしたのは38歳のとき。不惑を前に新たな一歩を踏み出すことにした。

街おこしへ特産品開発を手助け

15年勤めた出版社を辞めて独立したのは平成30年。大学、出版社時代の飲み歩きで培った情報網と人脈という武器を手に、ネットの荒海へと漕(こ)ぎ出した。

独立後は出版社時代に抱えていたジレンマを解消するように、ネットやSNSを駆使して情報発信のスピードを重視した。出版社時代は取り上げる店の質で勝負していたが、編集長を務める京都速報は「速報」の名の通り、設計事務所やビール会社、酒屋などのネットワークも生かして新店情報を仕入れ、早く、多く紹介している。これまでに掲載した記事は2千本以上。誰もが簡単に情報発信できるようになったからこそ、鮮度と量が重要だという。

令和2年にはユーチューブチャンネル「京都ロジウラTV」を開設、動画投稿も始めた。「街で声をかけられることが増えて、見てくれてる人がそれだけ多いんだなって。一つの投稿に対する視聴者の熱量がインスタグラムとかとは全然違います」。鍋がぐつぐつと煮える様子など写真ではうまく伝えられないシーンも動画なら伝えられる。取材先の飲食店や店主の良さ、面白さを引き出すために欠かせない手段となっている。

ユーチューブを始めてまもなく、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う最初の緊急事態宣言が出された。「どこのお店も暇だったので、取材に行くと喜んでもらえました」と振り返る。

視聴者が家にいながら、店で食事した気分になってもらえたらと思った。後継者がいない店がコロナ禍を契機に店を閉じたり、オープンを延期したりする店が増えた。苦しむ飲食店を目の当たりにして「メディアとして何かできることはないか」と考え、動画の投稿に加え、京都速報でもテイクアウトとデリバリーに特化した企画を展開。全て無料で紹介すると、多いときには1日10軒ほどから掲載依頼があり、1カ月間で約150軒も取り上げた。

コロナ禍が収束し、京都の街は観光客でにぎわい、活気を取り戻したように見えるが、飲食店は苦境から抜け出せていない。「コロナ禍を乗り越えた飲食店もその時の融資の返済で厳しいという話を聞きます」

そんな懸念も抱きつつ、今は新たな目標に向かって歩みを進めている。目標は「街おこし」だ。すでに飲食店同士のコラボレーションを手掛けているが、人脈や情報網を生かして地域の特産品などを開発し、地域振興につなげたいと考えている。「農業や水産業は後継者・人手不足などで辞めてしまっていると聞きますが、需要を作れたら続けられると思って」と話す。

その第1弾として昨年、ソースやドレッシングを製造・販売するオジカソース工業(京都市)と共同で、日本のユズ栽培発祥の地とされながら高齢化で生産者が減っている京都・水尾産のユズを使ったポン酢「京都路地裏 だしポン酢」を開発して売り出した。「第2弾は、京都の老舗と組んで、みそポン酢なんてどうかなと」とにやり。「情報発信のその先というか、情報発信するためのものを作り出して、PRまでお手伝いしたい。自治体からのお誘いは大歓迎ですよ。人の心を揺さぶるような企画とかをやってみたいな」

そう言って、いつも動画で見ているような少し照れくさそうな表情を浮かべた。

新しい遊びを考えてはやらせるのが好きだったという少年は今も、人を喜ばせるのに夢中のようだ。

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