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保守王国・群馬で山本一太知事に自民県議団がブレーキ、副知事人事で「直滑降」が逆効果に

産経ニュース / 2024年7月1日 10時0分

本会議後、任期を1年限りとするなどの確認書に山本知事とともに署名する自民、公明など主要4会派幹部

群馬県の副知事人事をめぐる山本一太知事と県議会自民党との3カ月に及ぶ確執は、議会最終日の6月17日、「1年限りの続投」という妥協案で決着した。知事側のペースで進むかと見られた再任案は〝蚊帳の外〟に置かれた自民執行部などの反発で膠着(こうちゃく)し、戸惑った知事が自身のブログに<反論・反発・悲憤>を次々と吐露、読者を巻き込んだ騒動へと発展した。背景には選挙で選ばれた首長と議会の「二元代表制」という自治体特有の制度への考え方の温度差もあった。

成果重ね、突っ走る

昨夏、再選を果たした山本県政の5年は、うち3年をコロナ対応に追われながらも成果を挙げつつある。

今年4月、半導体の世界的企業「信越化学工業」が伊勢崎市に4番目の拠点となる新工場建設を発表したほか、昨年夏にはタイヤ製造大手「日本ミシュランタイヤ」が東京都から太田市に本社移転するなど、有力企業の移転が相次ぐ。

県北部の豊富な県営水力発電所のグリーン電力を事業者向けに販売する地産地消型モデルの新設、旧陸軍・堤ケ岡飛行場跡地(高崎市)にIT拠点を集積させるといった先進的構想は企業ばかりか一般の関心も引き、昨年の移住希望先ランキングで群馬県は過去最高の全国2位に躍進した。

矢継ぎ早の成果は県民の支持を集め、自民県議団にしても異論はなかった。

突っ走る知事に寄り添うように副知事として伴走し、省庁はじめ中央との人脈を駆使し補佐してきたのが今回の人事案件の主役、経済産業省出身の宇留賀敬一氏(43)だった。

その貢献度から山本知事も当然、再任されるものと思い、沈黙を続ける自民執行部に向け自身のブログで再三、「代えがたい人材」と強調し訴えた。しかし、執行部が問題にしたのは、そこではなかった。

事前相談なく、募る不信

1期目の令和元年8月、当時の現職副知事では全国最年少の38歳で副知事となった宇留賀氏は2期目の昨年8月も再任された。ただ省庁から出向で就任した副知事は2年前後で戻るケースが多く、5年目となる宇留賀氏は異例といえた。

経産省も気にし始め、後任探しをしたものの難航する中、宇留賀氏本人が経産省を辞し副知事に専念する意向を知事に漏らし、話は動く。だが秘せられた。

発表されたのは今年4月4日の定例会見だったが、県議会、とりわけ自民党執行部はいつ知ったのか。

3月中旬、上京した幹部がある筋から「宇留賀氏が経産省を辞める」との情報を入手した。前年8月に副知事に再任したばかりだ、辞めてどうする? 長野県の実家(農業)を継ぐ-といった不確定な尾ひれもついた。さすがに知事から連絡があるだろうと待ったが、来ない。年度末、ぎりぎりまで待って、何もないので執行部側から確認の連絡を入れると、知事は情報が漏れていたことに驚き、わびた。だが-。

「そこじゃ、ないんだ」

副知事人事は議会の同意を要する最重要案件だ。なぜ、その情報が知事与党の最大会派へ、打診なり相談なりの形で伝わってこないのか。実は、これが初めてではなかった。重要政策でも事前の相談がなく、発表前後に知るといったことが続いていた。有権者に選ばれた知事と議会が並び立つ自治体の「二元代表制」を知事は分かっていない。

ならば、どうする。自民県議団は執行部を筆頭に、この案件に前向きな意向を一切、示さなかった。

「自信」から「戸惑い」に

知事は戸惑った。人気の高い自身のブログに、なぜ宇留賀氏が必要か、その能力、実績を何度も書き始める。一方で自民各県議を訪ねて説明し、説得もした。だが、はっきりしない。

宇留賀氏続投を訴えるブログ記事はシリーズ化し、4月6日から5月23日まで56回におよんだ。当初は「時間はある」と説得に自信をのぞかせたが、5月になると「執行部から何ひとつポジティブなコメントがない」と落胆、県議一人ひとりの名前をあげ、同意するよう呼びかけた。

事態は動かず、とうとう「自民党県議に何の恨みもないが、やらざるを得ないと思えばブログのメッセージは言霊のミサイルに変わる。一切、逡巡(しゅんじゅん)しない」と対決姿勢まで匂わせた。むろん、逆効果だった。

県議会で謝罪

5月24日、県議会第2回定例会初日。この日で交代する議長、副議長が早朝、知事応接室を訪ね、「混乱を招く」と、この日の再任人事案の提出を避けるよう進言し、知事は従った。

もし提出していたら? 「否決されていたでしょうね」。ある県議は言う。溝の深さを察した知事はブログから〝続投シリーズ〟や感情的表現を消した。代わって自制的な「知事は……『裸の王様』になる危険性がある」「『慢心』や『驕(おご)り』はないか」といったフレーズが増えていく。

6月12日、県議会全会派がそろう全員協議会に出席した知事は謝罪し、宇留賀氏の任期を1年限りに限定した譲歩案を示す。5日後の議会最終日、再任案は本会議で可決された。1年限り、ただちに後任副知事を探す-など4点の確認書を自民、公明など主要4会派と取り交わし、決着した。

「聞く耳」持ち続けられるか

「大きな騒動となったのは私の責任で、議会への慢心やおごりがあった」。山本知事は何度も謝罪した。

5月24日を境とする知事の急変は自民県議団の覚悟の深さを物語る。二元代表制への理解を、とはいうものの、ある幹部は「仕組み云々ではない。要は知事が耳を貸すかどうか、姿勢の問題だ」と話す。

ブログ名に「直滑降」を使用しているように、山本知事の志向は極めて直線的で、ときに突っ走る。政策スピードも意識して上げようとこだわり、実際、矢継ぎ早の政策発表には目を見張るものがある。ただ、一直線の見解や思いが思わぬ事態を招くこともある。

今回、ブログに自民党県議全員が名指しで登場したが、批判的表現は避けてはいるものの冗談めいた表現に傷ついた県議もいたという。「言霊のミサイル」も穏当とはいえない。

同じブログで6年前の11月、独自の調査結果を公表し、現職知事より自身の方がダブルスコアに近い支持率があるとして、出馬への口火を切ったことへの県議らの反発は、まだくすぶっている。今回の副知事人事が次の知事選への口火ではないかとの疑念も生んだ。

二元代表制とはいえ、知事は議院内閣制の首相と異なり有権者に直接、選ばれた、いわば大統領で権限も強い。直滑降を志向すればスピードは出せる。そこで本当に聞く耳を維持できるのか-。最大与党は今後も注視することになる。(風間正人)

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