覚醒剤に手を出し18歳で少年院 「患者を断らない」医師として再起した元非行少年の思い
産経ニュース / 2024年8月7日 8時0分
大阪府河内長野市の地域医療を支える「水野クリニック」院長で内科医、水野宅郎さん(46)は少年時代、シンナーや覚醒剤に手を出すなど非行を繰り返し、少年院に送られた過去がある。「人に迷惑をかけてきたからこそ、多くの人を助けたい」。そんな思いを胸に、今は「どんな患者でも断らないクリニック」として、末期がん患者らが穏やかに最期を迎えられる「終末期医療」にも力を入れる。
「今日が最期の日になると思う」。水野クリニックが運営するユーチューブチャンネルには、末期がんで1年間の在宅療養を続けた末、今年1月に亡くなった新福(しんぷく)高宏さん(50)=河内長野市=が死去する直前の一日が記録されている。
新福さんはカフェを経営し、大学生の息子が2人いた。朝、水野さんが自宅を訪れ診療を終えると、家族を外へ連れ出し新福さんの死期が近いことを告げた。「(患者の)意識があるうちに、家族が『さよなら。ありがとう』を伝えられるようにしたい」。水野さんが医師として最も大切にしていることの一つだ。
帰宅した家族が「カフェをする(引き継ぐ)から任せてね」と語りかけると、新福さんは家族の目を見つめながらうなずく。翌日午前3時ごろ、新福さんは息を引き取ったが、エンゼルケア(死後処置)を施す家族の表情には、どこか穏やかさがあった。
自販機荒らし、逃げ遅れ逮捕
大阪府松原市で育った水野さんは、開業医の父親のもとで何不自由ない生活を送っていた。しかし、中学生になると徐々に成績不振に。入部したサッカー部でもレギュラーからも外れ、「何をやってもうまくいかない」と自暴自棄に陥った。
やがて授業を受けなくなり、サッカー部も退部。気づけば周りにいたのは不良仲間ばかりだった。「両親もよく自宅にいてくれたし、家庭環境が悪かったわけじゃない。だからこそ誰でも不良になる機会が身近にあると思う」と振り返る。
「もし宅郎と出会えば、クマと鉢合わせたと思え」。不良少年として地元で恐れられ、仲間に勧められるがままにシンナーを吸引。覚醒剤にも手を出し、大阪市内で密売人から購入を重ねた。「クスリ代」欲しさに自販機荒らしや車上荒らしも繰り返したという。
高校を中退し自堕落な生活を送った18歳の夏、不良仲間と自販機荒らしをしていた現場を警察官に見つかった。逃げ遅れた水野さんだけが逮捕され、兵庫県加古川市の少年院「加古川学園」に入った。
出院後に猛勉強、医学部合格
「落ちるところまで落ちてしまった」。ようやく自分の行いを悔いるようになった。反省の日々を送る中、父から一通の手紙が届いた。
《そんなに自分を蔑(さげす)むな。お前は今でも自慢の息子だ》
「蔑む」は読めなかったが、「自慢の息子」という言葉に涙があふれた。「将来はお父さんみたいなお医者さんになりたい」。幼い頃、父にそう話したのを思い出した。周りの収容者が「出院後はヤクザになる」などと公言する中、水野さんは父の背中を追うため更生を決意した。
出院後、父に「医者になりたい」と打ち明けた。「お前を高校に通わせるためにためた学費がまだ残っている。その分でやれるだけやってみろ」と背中を押された。受験勉強を始めたころはアルファベットも最後まで書けない状態だったが、予備校に通って猛勉強。高卒認定試験(旧大学入学資格検定)を経て、3年目の受験で金沢医科大医学部に合格した。
地域の医療・子供支える
平成20年に卒業後、医師免許を取得。富山県内での勤務医を経て30年、水野クリニックを開業した。地域医療の拠点として出発した直後の令和2年、新型コロナウイルス禍が世界を襲った。他の医療機関で発熱外来の患者が受診を断られるケースを何度も見聞きした。
「自分は今までの人に迷惑をかけてきたから、今度は大勢の人を助けたい。『誰も断らないクリニック』にしたい」
どんな患者も受け入れ、困った患者のもとに駆け付けるよう心掛けた。コロナ患者が入院で家族と面会できない事態を避けるため、可能な限り在宅療養ができるよう訪問医の人数を増加。ICU(集中治療室)並みの医療設備を確保した。地元住民からは「先生が地域の医療を支えてくれる」といった感謝の声も届く。
水野さんは現在、「昔の自分と同じようにくすぶっている子供たちに前を向いてほしい」と、各地の少年院や地元の不登校児らを対象に、自身の経験を伝える講演会を開く。また、地元で「子供食堂」も運営し、困窮や虐待、いじめなどに苦しむ児童を支えている。
「人はささいなことで非行に走ってしまう。だからこそ、自分が子供たちや地域の悩みを聞き、一緒に解決していきたい」(鈴木源也)
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