どこに建てる？ 青森県立中央病院と青森市民病院の統合新病院、設置場所巡る議論難航

青森市民病院（福田徳行撮影）

青森市の県立中央病院（県病）と市民病院を統合し、新たな病院を同市内に作る計画が、設置場所を巡って中心部と中心部から少し離れた場所の二者択一で関係者の議論が難航している。さらに、議論の中で設置経費を巡る県と市の認識のズレや連携の不十分さが浮き彫りになるなど、先行きを不安視する声も出ている。

県病、市民病院とも医療従事者不足や建物の老朽化など共通の課題を抱えていたことから、令和３年１１月に有識者で組織する協議会が統合病院の整備が望ましいとする提言を県と市に提出。これを受け、４年２月に三村申吾前知事と小野寺晃彦前市長が両病院を統合して新病院を整備し、共同経営することで合意。建設場所を市中心部の「青い森セントラルパーク」（ＣＰ）など３カ所の県有地を検討対象とし、５年度中をめどに基本構想・計画を策定する方針だった。

新たな案浮上

ところが、昨年６月に就任した宮下宗一郎知事が立地場所や医療連携の在り方など課題が多いと判断、検討内容を見直す方針を明らかにしたことで状況が一変。小野寺前市長の知事選出馬に伴って行われた市長選で初当選した西秀記市長と９月に会談し、新病院を共同経営する方針を堅持した上で、新たに外部有識者による会議を設置し、街づくりの観点から病院の跡地利用や交通体系を市が主体的に議論していくことなどで合意した。

焦点の建設場所を巡っては、市が設置した有識者による検討会議では、これまでの議論の中でＣＰを推す意見が大勢を占めていたが、市の検討会議とは別に県と市が設置した有識者会議で、交通の利便性の観点などから中心部から少し離れた国道７号環状線（外環状線）周辺を検討する方針が示された。こうした中、県が外環状線エリアにある同市浜田の県営スケート場、サンドーム、浜田中央公園一帯を候補地に加える案について、ＣＰとのメリット、デメリットを比較する形で候補地として提示。県の案はスケート場、サンドームとも大規模改修や建て替えの時期を迎えているため、ＣＰにこの２つの施設を移設し、その跡地に統合病院を整備するというものだ。

前提の整合性に疑問符

県のスケート場一帯案について、市側が難色を示す中、７月２３日に開かれた市の検討会議では、県の案に対して委員から批判的な意見が相次いだ。県建築士会の工藤真人副会長は「県の資料を見るとだいぶ前から検討しているのかと勘繰りたくなる」、県不動産鑑定士協会の最上伸子監事は「有効活用されていない公有地が候補だったはず。２つの施設とも現在、活用されている」などと、議論の前提の整合性を疑問視する声が出された。さらに、県の提案に対して唐突感を指摘する意見もあった。

県と市のズレ表面化

議論が混迷を深める中、今月１４日に開かれた６回目の検討会議で、統合病院の整備に関わる関連経費を巡って県と市の認識のズレが表面化する一幕が。会議の席上、市が独自に行ったＣＰと県営スケート場一帯の両案を比較検討した経費試算を公表。これに対し、県は県の試算と大きな差異があると反発、異論を唱えた。さらに、荒関浩巳県病院局長が「市から試算の資料が示されたのは会議の直前」と不快感を示した。

結局、この日の会議では意見集約を見送り、足達健夫座長（青森公立大准教授）の提案で、両案付近に住む地域住民の考えを聞き取った上で検討会議としての意見を取りまとめることを申し合わせた。

設置場所を巡る議論が県民、市民にはどう映っているのか。同市内の男性会社員（５２）は「そもそも宮下知事は設置場所は市が街づくりの視点から決めてほしいと言っていたはず。それが急にスケート場一帯案を出してくるとは…。何か裏や思惑があるのでは」といぶかる。同市の無職女性（６２）は「県民には県と市が対立していると映る。２つの案のどちらに決まっても県と市のしこりが残らなければいいが…」と先行きを不安視する。一方、八戸市の男性会社員（３７）は「２つの案が出てきた段階で住民の意見を聞いて検討会議で議論するなら分かるが、順序が逆ではないか。今の段階でまだ意見がまとまらないのは結局、県と青森市の主導権争い」と厳しく断じた。

統合病院の開設は、これまでの令和１２年３月めどから１４年１０月に先送りされた。統合病院は県内全域の地域医療を支えると同時に、県内の他の自治体病院との連携強化によって慢性的な医師不足の解消や高度な地域医療体制の構築というミッションも併せ持つ。医療に対する県民の不安を増幅させるような議論だけは避けなければならない。（福田徳行）