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全入化で減少続く大学夜間部 社会人の「学び直し」として生き残り 吉永小百合さんら卒業

産経ニュース / 2024年11月14日 8時0分

夜間部が設置されている大阪経済大。夜になっても校舎にはあかりがともる

苦学生の「学びの場」だった大学夜間部(2部)。「大学全入時代」の影響もあり、設置大学数とともに志願者も減少しているが、近年では大卒資格の取得やリカレント(学び直し)を目的とした社会人経験者の入学も増えているという。令和の現代、社会人学生はどんな思いで夜間部の門をくぐるのか-。

「キャリアアップのためですが、高卒という学歴コンプレックスもありました」

昭和26年に夜間部を設けた大阪経済大(大阪市)。今では関西の私立大で唯一となる経営学部2部の3年生、徳山将立(まさはる)さん(25)は入学理由をそう話す。

大学受験に失敗し、就職したが、学生生活を送る友人らと自身を比べる日々。「社会に出て数年間は腐って人生を諦めていた」と振り返る。

だが、社会人生活を送るうちに、次第に会社経営について学びたいとの思いが芽生えた。令和4年、学費が抑えられる夜間部がある同大の面接試験を受けて入学、仕事は退職し、現在はアルバイトと奨学金で学生生活を送る。

組織論や人材管理など3年間の学びを生かして「管理職として活躍したい」と徳山さん。「再び社会に出るのが27歳なので少し不安」と明かすが、「社会人の経験値と大学での学びが自分の強みになる」と将来を前向きに捉えている。

徳山さんと同じく3年生の丸山舞さん(30)は不動産業界での勤務経験から、仕事でのキャリアアップと私生活が両立できる女性の働き方を知りたいと転職後、入学した。

授業や18~72歳までのさまざまな年齢の同級生との交流、自身も昨年、母親になったことで求めていた「答え」が見え始めているという。「同級生と話していると、新しいことに挑戦する先に自分の可能性があるのかなと感じます。社会に出てからも学び直す機会が当たり前になれば」と話した。

昼間働いている「勤労学生」の学びの場として戦前から全国の大学で開講されていた夜間部だが、昭和22年、教育基本法で初めて法的に規定された。

首都圏では早稲田大や横浜国立大、関西圏では同志社大や立命館大などにも設置された。女優の吉永小百合さんや元宮崎県知事の東国原(ひがしこくばる)英夫さん(いずれも早稲田大の第二文学部)など著名人の出身者も多い。

しかし高度成長期を経て国民の生活が底上げされたことや60年代以降、大学や学部の新増設が盛んになり、平成にかけて「大学全入時代」が到来。社会人向けの専門大学院の設置も進み、次第に夜間部の存在意義は薄まっていった。文部科学省の学校基本調査(令和5年度)によると、平成元年度には全国の141大学に置かれていた夜間部は、その後一時増えたものの、令和5年度には約3分の1の56大学にまで減少している。

大学教育に詳しい近畿大の松本圭朗(よしろう)助教(教育学)は、「夜間部はリカレント教育を目的とした社会人学生をメインターゲットにするよう変化した」と指摘する。

現存する夜間部では、社会人学生を含めた多様な学びのニーズに応えようと環境整備が進む。夜間部で唯一の理学部がある東京理科大では、育児や介護などさまざまな事情を抱える学生を念頭に、4年で卒業する学費とほぼ同じ費用で、5~6年かけて授業を履修できる制度を導入した。

大阪経済大でも平成28年度、定員を90人から110人に拡大。学期を1年間で4分割し、短期間で多くの科目を履修できる「クォーター制」を採用している。しかし、少子化の影響や奨学金制度の拡充で志願者は減少に転じ、昨年度からは定員を50人にまで縮小した。

夜間部の授業を担当する水野未宙也(みうや)講師は「社会人学生の需要もあり、定員削減の慎重論も根強かった」と振り返る。

水野氏自身、社会人学生から感じる熱量は多いといい「授業後に質問を受けたり、勤務先の事情を聴いて授業の内容と絡めて議論を深めたりするなど現役生にはないニーズを感じる」と明かす。

「夜間部を取り巻く現状は厳しいが、これまでの歴史もある。学びたいという人がいる限り続けていきたい」と話した。(小川恵理子)

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