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甲子園のドラマ生み出す阪神園芸の「神整備」 伝説グランドキーパーから継承された職人技 甲子園球場100年

産経ニュース / 2024年7月23日 10時0分

2017年のクライマックスシリーズ・ファーストステージ「阪神-DeNA」。第2戦は降雨の中で試合が行われ、DeNAの筒香嘉智が打席で転倒する場面もあった

甲子園球場(兵庫県西宮市)がたどってきた100年の歴史は、内野グラウンドの黒土とともにあったといえる。プロ野球選手や高校球児たちの汗や涙、喜びも悔しさもしみ込んだ土からは数えきれないドラマが生まれてきた。現在、甲子園のグラウンド整備を請け負っているのが、造園会社の阪神園芸(西宮市)だ。ドラマの陰には「甲子園の土守」と称される職人たちの連綿と息づくグラウンド作りがある。

引き継がれる技術

甲子園はプロ野球12球団の本拠地で唯一、内野が土のグラウンドだ。その整備の基礎を築いたのは、最初に「土守」と呼ばれた藤本治一郎さん。1995年に70歳で死去した藤本さんは「選手の身になって整備する」が口癖だった伝説の人である。

プロ野球阪神の練習中、ベンチに座っていた岡田彰布監督(66)が現役時代の思い出として、報道陣にこう語ったことがある。

「(打球の)イレギュラーがあった日、ナイター照明も消えとった暗い中で、藤本の親父が一人、懐中電灯持って、その場所を手でさわっとった。その姿見たら、なんも文句言えんと思ったわ」

その技術は名グラウンドキーパーだった辻啓之介さん(2003年引退)へ、そして辻さんの元でノウハウを培った甲子園施設部長でチーフグラウンドキーパーを務める金沢健児さん(57)へと引き継がれ、いつしか「神整備」と呼ばれるようになった。

記憶に新しいのは、17年10月15日、DeNAとのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ第2戦。降雨のため1時間遅れで試合が始まったが、やむ気配はなく、内野は水浸しとなった。水を吸っては砂を入れる応急処置の繰り返しで、グラウンドは何とか試合終了まで持ちこたえた。

神整備として改めて脚光を集めたが、金沢さんの思いは違った。「手の施しようがないぐらいの状態の中で選手がやってくれた」。翌日の試合は降雨中止。雨はさらに次の日の昼頃まで続いたが、その日も試合がある。試合直前まで5時間以上にわたる作業でコンディションを整え、試合へとこぎつけた。

条件で的確な判断

「雨の後の整備は、特にしっかりと行う」という。ぬれた土を早く乾かすため、スパイクの歯が入る程度に約2センチの土を掘り起こし、太陽や風に当てた後、機械で軽く固める。この作業を行うタイミングが勝負どころ。雨量、日照時間、気温、風…。常に異なる条件を読み誤ると、かえって状態を悪くしてしまう。

「試合の開始時間から逆算し、そのときのベストな整備を探る」。その的確な判断こそが長年の経験と知識に基づくひらめきであり、受け継がれてきた職人技でもあるのだ。

金沢さんは内野の土を「ぬか床」と表現する。手入れを怠らないという意味だ。甲子園の土は、水を吸収しやすい黒土と水はけの良い砂を混ぜて作られている。相反する条件ではあるが、歴代の土守たちが土台作りをしてきた土を守るために、整備技術を高めてきた。「昔の方は手作業でグラウンドを作っていたことを考えると、そのときより、悪くすることはできない」と強調する。

金沢さんは入社してまもない頃、100周年を迎える日を考えたことがある。「いつかグラウンドを守る立場としての技術、ノウハウは身に付けておかなければいけないと思った」。使命感を強く抱いた瞬間でもあった。

今年も8月7日に開幕する全国高校野球選手権が近づいてきた。「この土を踏むために練習をしていることを考えると、いい土を作ってあげておかないと」。グラウンドに目を向け、これから生まれるドラマに思いをはせた。(嶋田知加子)

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