岡田監督から藤川球児氏へ虎将交代劇の舞台裏 名将の後任、戦力的退潮にどう立ち向かう 「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記
産経ニュース / 2024年10月8日 11時30分
修羅場、苦境でマウンドに立ち、乗り越えてきた藤川球児氏(44)に新時代を築いてもらうしかないですね。阪神球団は6日、岡田彰布監督(66)の今季限りでの退任を発表。舞台裏では、球団本部付スペシャルアシスタント(SA)の藤川氏に監督就任を要請し、内諾を得ている事実が明らかになりました。チームは宿願のリーグ連覇が霧散。18年ぶりVの昨季に比べてチーム総得点が70点減り、四球数と盗塁数も激減しています。果たして新監督は〝名将の後任〟という重圧の中で、熱狂的なファンの期待に応えることができるのか。阪神球団は「ルビコン川を渡る」決断を下しました。
阪神球団が監督交代を決断し、新体制に大きくかじを切りました。名将・岡田監督の今季限りでの退任を発表し、来季の新監督として藤川氏の就任を内定させました。
15年ぶりに阪神監督に復帰した昨季、チームを18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶり2度目の日本一に導いた岡田監督は今季、74勝63敗6分けで、4季ぶり39度目のリーグ優勝を果たした巨人に3・5ゲーム差の2位を確定させました。9月以降の成績は15勝8敗。最後の最後まで粘りましたが、わずかに及ばず、球団宿願のリーグ連覇の夢は散りました。しかし、まだ2年連続の日本一への挑戦権は残っています。
修羅場での登板「宿命」
名将が退き、藤川新監督で船出する来季。ある球団関係者はこうつぶやきました。
「彼(藤川氏)の人生の宿命のような気がするね。コーチなどの指導経験がなく、いきなり監督というマウンドに上がるわけですよ。準備万端整えて就任するわけじゃない。世間では指導者経験がない、と不安視する声も出るやろうけど、準備を尽くして監督になれば必ず成功するわけでもないはず。今はチームとして退潮気味の戦力。しかも岡田さんの後。すごいプレッシャーだし、ある意味で修羅場、苦境になる。でも彼は現役時代からそういう環境でマウンドに上がってきた。だから人生の宿命なのでは。あとは結果が出ればいいですけどね」
指摘された通り、藤川氏は現役時代、阪神や大リーグのカブス、レンジャーズなどで日米通算811試合に登板、245セーブを記録しました。どの試合も心臓が口から飛び出すような緊張感あふれる試合終盤での登板。修羅場、苦境を乗り越えてきたからこそ、「火の玉ストッパー」としてファンから愛されてきた。
今回の登板(監督就任)も、ブルペン(コーチ業)で完全に肩を温めてからのマウンドではないかもしれない。でも、第36代阪神監督に就任したその時から、ファンや周囲は岡田監督時代の2季で築き上げた〝成功の軌道〟の継続を求めます。要は新監督として、そんな熱い期待に応えることができるのかどうか…。結果がすべてですね。
「今度は阪神が決める番」
このコラムでは2週にわたって「岡田監督続投が最善手」と書きました。それでも「続投」「留任」とは書けなかった。阪急阪神ホールディングスの角和夫代表取締役会長兼グループCEOが、〝阪神案〟である平田勝男2軍監督(現ヘッドコーチ)の昇格案を退け、岡田彰布氏の招聘(しょうへい)を求めた2年前の9月、同CEOは同時に「2年だけ、こっちに任せて」と要望。2季が過ぎ去れば、監督人事のイニシアチブは阪神電鉄本社に戻すことを約束しました。
球団関係者によると、「弁護士も同席して約束を交わした」と言います。今回の監督交代劇の裏で、さまざまな取材に答えた角CEOは「今度は阪神が決める番。阪神が出した答えは尊重します」と話しています。
体調面に不安
監督人事のボールが戻ってきた阪神電鉄本社首脳が考えそうなことは何か? 6月下旬の頃から岡田続投か否かを取材する中で、どんな声を拾ったか-を書きます。
「続投かどうか…ではなく、退任がスタンダードなんだ。阪神はチームが日本一になった直後の昨年暮れ、岡田監督との契約書の更新の際も『あと1年、よろしくお願いします』と言っている。その席で契約延長の話は一切、出なかった。それが答えだろう」
「角さんも岡田監督の3年目にはそれほど執着していない。この2年である程度は目的を達成したと思っているはず。岡田さんも素晴らしい2季を過ごした。来季までの延長は成績が落ちて、蛇足になる可能性もある。この2年間の成績をもって退けば、永遠に『岡田監督は最高だった』と言ってもらえる。その方がいいのかも…」
まだまだ続投を否定する声をたくさん聞きました。そして、気になったのは11月25日で67歳を迎える老将の体調面でした。時としてせきが続き、たんが喉にからむ場面が見受けられる。球場から宿舎に帰るバスの車内では監督のせきが鳴り響いている…という話。遠征の移動がしんどくて、酷暑の夏はゲッソリしていた…という話。近い関係者に「野球は大丈夫だけど移動が大変や」と漏らしていた話…。潮時、という言葉があるなら、そうなのかもしれないなぁ~と感じることもありました。
歴代最多552勝
しかし、それでも「続投が最善手」と書いた理由はグラウンドを見続けてきたからです。監督に復帰した昨季からのレギュラーシーズン286試合、選手起用や戦略戦術で、監督自身がアマの段位を持つ将棋用語でいう「悪手、ポカ、頓死、疑問手」がほとんどなかった。近くで岡田采配を見ていたコーチ陣からも「オリックス監督時代(2010~12年)を含めて、さまざまな経験をしているので、試合の中での引き出しが多いね。特に昨季の采配はすごみすらあった。さえていた」と感嘆の声が漏れていました。
阪神監督として通算7季で歴代最多の552勝を記録し、勝率5割6分6厘も歴代最高勝率です。これほどの実績と手腕を持つ指揮官を「阪急→阪神」という主導権の移譲だけで代えていいものか?という思いが常にありました。
攻撃力大幅ダウン
チームの状況的にも今は退潮の気配がありますね。チーム総得点は昨季の555から今季は485に70点減。四球数は494→441、84本塁打→67本塁打、79盗塁→41盗塁。全ての攻撃力が落ちています。投手陣全体の防御率は2・66→2・50と向上していますが、村上、青柳、伊藤将ら先発陣はピークアウトの様相。来季に向けては、ドラフトや外国人などの補強で戦力を強化しないと厳しい状況であることは数字が表しています。難局を乗り切るには百戦錬磨の指揮官で-と思ったのですが、さいはもう投げられました。
新監督就任が確実視される藤川球児氏は、修羅場、難局を乗り越えてきた炎のストッパーでしたね。卓越した投球術、打者の心理を読む眼力…それらが采配に生かされることを祈るのみです。絶対的な自信と信頼があればこそ、岡田退任→藤川新監督にかじを切った。阪神球団はその決断に最後まで責任を持ってもらいたいものですね。
◇
【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。
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