難病「黄色靱帯骨化症」から再起の阪神・湯浅京己 同じ病歴を持つ元オリックス投手がエール
産経ニュース / 2024年9月15日 10時0分
昨年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも出場した阪神の湯浅京己(あつき)投手(25)が国指定の難病「胸椎黄色靱帯(じんたい)骨化症」の手術を受け、リハビリをスタートさせた。プロ野球界で初めてこの病気の手術に踏み切ったのが、元オリックス投手で1989年に新人王のタイトルも獲得した酒井勉さん(61)。酒井さんは「復帰を焦らず、球界で長く活躍してほしい」とエールを送る。
原因不明の難病
阪神は8月25日、湯浅が手術を受け、退院したことを発表。同27日、久々に公の場に姿を現した湯浅は「戻ってこられて安心している」と明るく語った。
湯浅を苦しめていた胸椎黄色靱帯骨化症は、背骨付近の靱帯が硬化して神経を圧迫する原因不明の難病。重症化すれば、手足のしびれや下半身まひなどの症状が出る。湯浅は昨年から体に違和感を覚えていたそうで、「なんで体に力が入らないんだろう」と感じながらも、今季は春季キャンプを1軍でスタートさせた。
だが、脇腹に違和感があったり、特に右脚に力が入らなくなったり、症状は悪くなる一方で、「どうしていいか分からない期間はすごく長かった」。病名が判明した際も「投げられなくなったらどうしようという不安や恐怖が一番にきた」と振り返った。
プロ球界では元巨人の越智大祐投手や元ソフトバンクの大隣憲司投手らが罹患(りかん)。最近では、DeNAの三嶋一輝投手や中日の福敬登(ひろと)投手が1軍復帰を果たし、クローズアップされた。
「体に電流が走った」
プロで初めて胸椎黄色靱帯骨化症の手術に踏み切った元オリックス投手の酒井さんが発症したのはプロ5年目の93年のシーズン中で、30歳のとき。先発の一角を担い、次回登板に向けた練習中だった。「ボールを投げる瞬間、背中をハンマーでたたかれたような衝撃というか、強い電流が背中からかかとまで走った。その場でへなへなと崩れ落ちた」という。
重大事と察知した土井正三監督(当時)の指示もあり、複数の病院を受診。病名が判明したのは、約1カ月後。初めて聞く病名を医師から告知された。
世界では若いスポーツ選手の症例がないことや、再び投げられるかどうかの保証もできないといった説明を受けた。最初は左足の小指だけだったしびれも、1日に数センチずつ体の上部へ広がっていき、「家の中で洗濯ばさみを踏み、血を流していても気が付かなかった」。手術では、脊椎の後ろ側3本を外し、靱帯の硬くなった部分を取り除き、人工骨を入れたという。
術後は、翌年の春季キャンプでの復帰を目指した。だがリハビリも前例はない。「後から考えると、リハビリを急ぎ過ぎた。ただ、30歳を過ぎていたから…」。治療の期間も考慮され、球団とは94年からプロ野球界で初の複数年契約となる3年契約を結んだが、1軍復帰はかなわないまま96年に引退。今も左足小指の感覚は弱く、背中には人工骨が入ったままで、手術の傷痕も残っている。
「長く現役続けて…」
酒井さんは現在、母校の東海大で野球部コーチを務める。「大学生や社会人でも、ここ10年で5、6人は(症例を)聞いた」という。罹患した選手の指導者から連絡を受け、アドバイスを求められたこともある。「実は、靱帯が硬化している予備軍は多いと聞く。いまだ原因不明で投手ばかりが手術を受けているが、医学は進歩している。何か(原因究明の)ヒントがあるはず」と訴える。
湯浅は「甲子園で元気に投げている姿を見てもらえるように」と意気込み、来年の春季キャンプでの復帰を目指し、リハビリを続けている。酒井さんは「25歳と若く、すばらしい素材の投手」と話しながら、「術後は思った以上に動けるが、負担は大きい。本当に焦らず、術後15年にわたって現役を続けたというような記録も作ってほしい」と願いを込めた。(嶋田知加子)
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