5季連続出場の桑田真澄氏が〝聖地〟を語る「甲子園は砥石」 8月に開場100周年
産経ニュース / 2024年7月20日 7時0分
プロ野球阪神の本拠地で、高校野球の「聖地」として知られる阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)は8月1日、開場100周年を迎える。プロアマを通じ幾度となくマウンドに立ってきた巨人の桑田真澄2軍監督(56)が取材に応じ、今も鮮明に残る甲子園の思い出や次の100年への提言を語った。
「絶対諦めては駄目」
《大阪・PL学園高のエースとして5季連続で甲子園大会に出場し、2度の優勝を経験。清原和博さんとの「KKコンビ」で注目を集め、通算20勝の記録は今も破られていない》
「初めて足を踏み入れたときは甲子園の雄大さ、大きさに圧倒された。それから芝生と土とソースのにおいが混ざった独特の香り。それがすごく忘れられない。入場行進を待つ間、阪神園芸のおじちゃんに『お前かPLの1年坊主は。甲子園は風を見て投げろよ』と言われてね。入場行進のときに風を感じて『こういうことか』と、センターの旗を見ながら投げていた。甲子園の特徴を教えてもらった15歳の夏だった」
《一躍名を挙げたのは、1年生だった1983年夏の準決勝、徳島・池田高戦だ。猛打の「やまびこ打線」で恐れられた優勝候補を抑え、7-0で完封勝ち。下馬評を覆した》
「絶対に諦めちゃいけないということを、あの試合で学んだ。『10点以内に抑えろ。大阪の恥をさらすな』と先輩に言われ、何とか9点に抑えよう、1回1点まで大丈夫かなんて思っていた。でも向かっていく気持ちで挑戦したら、こういうことが起きるんだと。
甲子園は例えると砥石(といし)。マウンドや打席に立つと緊張、重圧、孤独感、恐怖心がわく。そこに立ち向かう勇気や精神力が大事で、逃げずにチャレンジすることで自分も磨かれていく」
ピンチで言葉が降りてくる
《高卒で巨人入り後、通算100勝を挙げたのも甲子園。聖地は特別な場所であり続けた》
「よく野球の神様がいるっていうけど、甲子園はとんでもない力を与えてくれる。迷ったらマウンドを降り、メッセージを待った。そうすると『ここはカーブを勝負球にしろ』『思い切ってインサイドを突け』とポンと降りてきて、ピンチを脱したこともあった。そういう体験が甲子園ではたくさんある」
《高校3年間は直球とカーブ以外の球種を封印した。情報があふれ、150キロ超の直球や多彩な変化球を操る高校球児が増える今、思うことがある》
「真っすぐとカーブで抑えられないような投手は、プロでエースになれないと思っていた。制限を与えたことで、真っすぐも角度や速度を操れるようになった。ここに投げたら空振りが取れる、フライが取れる、ゴロでアウトが取れるというのを覚えた。
(さまざまな情報に)興味を持つのはすごくいいこと。ただ、目標は何かを見失ってはいけない。アウトの取れない150キロの直球なんて意味がない。通算で何本塁打打っていても、大事な場面で打てなきゃ。いつ、何が必要か。場面を考えて、プレーできるような選手になってもらいたい」
2部制は「半歩前進」
《今夏の全国高校野球選手権大会では暑熱対策として朝、夕に分けて試合を行う2部制を導入。1週間で500球以内という球数制限も2020年から始まり、高校野球は少しずつ変化している》
「甲子園は暑さとの闘い。僕も意識朦朧(もうろう)となりながらマウンドに立ってたときもある。大人の都合で選手の健康を悪くするのは良くない。(2部制は)半歩前進。午前は高校野球、夜はプロ野球をやって日程を長くするとか、まだまだやれることはたくさんある。
現状の球数制限は連投を避けるとこまでいかないし、登板間隔(の規定)も必要だと思う。プロ野球の一番の供給源は高校球児。選手を壊すことなく大事に育てるため、どんどん試していった方がいい」
《甲子園に育てられた一人だからこそ、いま球児へ伝えたいことがある》
「甲子園に出たから偉いとかではなく、甲子園を目指し、大きな目標に向かって努力することが大事だと思う。5季連続出場は自分だけの力じゃなく、チームメートみんなで力をあわせて戦えたから達成できた。過酷な状況で戦う皆さんには、団結力、助け合うことが勝利への一番の近道と意識してもらいたい。そして、最後の最後まで諦めないことです。
高校時代に甲子園でプレーさせていただいた自分は本当に幸せ者。先人が育ててくれた日本の素晴らしい文化を、また次の100年につなげていってもらいたい」(運動部 川峯千尋)
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