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掛布雅之新OB会長が30日誕生 300万人動員も大型補強に乗り出さぬ球団に「喝」を 「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

産経ニュース / 2024年11月26日 11時30分

巨人-阪神OB戦の試合前セレモニーで、グラウンドに入場する掛布雅之さん=7月15日、東京ドーム(松永渉平撮影)

静かすぎるオフの最大のトピックスは、ミスタータイガース・掛布雅之氏(69)が30日に阪神OB会会長に正式就任することです。猛虎史の大きな節目ですが、オフの最大の話題は戦力整備、戦力補強であるべきではないですか。今季、4年ぶりのリーグ優勝を飾った阿部巨人がフリーエージェント(FA)市場で、阪神・大山悠輔内野手(29)やソフトバンク・甲斐拓也捕手(32)らの〝総獲り〟に動いている中で、阪神の来季に向けた戦力補強は?

岡田氏とともに後方支援

今季300万9693人という12球団トップの観客動員数を誇った球団の金庫の扉はなぜに重い…。掛布新OB会長、球団に何か言ってくださいよ!

阪神の球団史に新たな1ページが刻まれます。30日の阪神OB会総会で、川藤幸三OB会長から掛布雅之新OB会長へ、その座が禅譲されます。OB会の中でもずぬけた人望を得る掛布氏が、チームをバックアップする側のトップに立つわけです。

「今年の夏に行われた巨人とのOB戦(7月15日=東京ドーム)でも、掛布さんを中心にOBたちはまとまっていた。川藤会長も長い期間、務めてきたし、このあたりで交代するのがベスト。ちょうど岡田彰布前監督もオーナー付顧問に就任したし、掛布さんと岡田さんが両側から藤川球児新監督をバックアップする形になればいいのではないか」と阪神OBの一人は話しましたね。

3代目ミスタータイガース

掛布氏のキャリアについて、今さら説明はいらないでしょう。千葉・習志野高から1973年のドラフト6位で入団。伝説に残るほどの猛練習でレギュラーをつかむと、本塁打王3回(79、82、84年)、打点王1回(82年)、ベストナイン7回、ダイヤモンドグラブ賞6回など輝かしい実績を築きました。指導者としても2016年から2季、2軍監督を務めています。

「ミスタータイガース」の系譜にはさまざまな意見がありますが、初代の藤村富美男、2代目は村山実、そして3代目は掛布雅之…というのが最も支持の多い流れで、紛れもなく掛布氏はミスタータイガースなのです。まさに猛虎の球団史を背負った同氏がOB会長に正式就任することは、藤川新監督が誕生した今オフのトピックスですね。

静かすぎるオフ

しかし、それはそれでいいとして、今オフの阪神にまつわる他の話題は地味過ぎませんか。このコラムでは何度も書きましたよ。チームの戦力は退潮気配にある…と。投手陣の防御率こそリーグ優勝した23年の2・66から今季は2・50と向上しましたが、打撃部門ではチーム打率(2割4分7厘→2割4分2厘)も本塁打数(84本→67本)も盗塁数(79→41)も減り、チーム得点数は昨季の555点から485点に70点も減っているのです。

「いくらピッチャーがよくても、打線が点を取ってくれなければ、最終的にはとても持ちこたえられない。今季はそれでも最後の最後まで巨人を苦しめてきたが、逆に言うなら打線がもっと打っていれば連覇の可能性もあった」と阪神OBは話します。そうした今のチーム力を改善する方法は、若い力を伸ばすなど現有戦力の底上げと外部からの戦力補強の両輪ですね。

ところが、オフに入って阪神のドラフト以外の戦力補強を見てみると、DeNAを戦力外となった楠本泰史外野手(29)の獲得と、育成契約で獲得したパナマ出身のジーン・アルナエス内野手(22)が目立つ程度。FA市場への参戦は見送られ、戦力の肉付けは現有戦力のレベルアップの一本道です。

巨人はFA争奪戦に参戦

他球団も足並みをそろえている?のなら黙っていますが、球団創設90周年だった今季、4年ぶりのリーグ優勝を飾った巨人は、クライマックスシリーズのファイナルでDeNAに敗れると、オフに入るや大型補強に乗り出しました。FA宣言した阪神の4番・大山やソフトバンクの正捕手・甲斐の獲得に向けて調査し、今は争奪戦の渦中にあります。さらにFA権を行使したソフトバンク・石川柊太投手(32)の争奪戦にも参戦しているとみられ、他にも補強の噂が絶えません。

これらの補強作戦がすべて成功するとは限りませんが、来季こそはリーグ連覇で12年以来遠ざかっている日本一の座を奪回するぞ-という意欲がオフの動きから見えてきます。確かにお金で勝利を買うのか、という批判もあるでしょうが、戦力の充実こそが優勝へのマストな条件であるならば、しゃにむに戦力補強に乗り出す姿は評価できますよね。

もうけはどこへ

阪神の今季の観客動員は300万9693人でした。ホーム72試合で1試合平均は4万1801人でした。12球団で一番お客さんが入ったのは阪神です。球場のチケット代やグッズ代、球場内の飲食収入、甲子園駅までの阪神電車の往復運賃やテレビ、ラジオの放映権料などを含めると、いくらもうけたのでしょう。

タイガースは現在、阪急阪神ホールディングスのエンタテインメント事業の中にありますが、収入はほとんど上納されていて、球団の金庫にはほとんど何も残っていないのでしょうか?と勘繰りたくなるほど、球団の金庫の扉は重いですね。

かつて久万俊二郎オーナーは「うちは巨人のようにはいかない」と大型補強には消極的でした。当時、毎年のようにシーズン200万人の観客を動員している時代でしたが、久万オーナーはタイガースにまつわるお金の動きをこう説明していました。

「タイガース単体ではもうけているが、そのお金は電鉄本社に入る。うちは連結決算なので、他の赤字のグループ会社の補填(ほてん)に使われる。グループ全体とすれば、そんなにお金は残らない」

当時は六甲山の施設や甲子園阪神パークなど、多額の赤字補填にタイガースがもうけたお金は回されていて、球団がもうけたお金なのにチーム強化にはほとんど使えなかったのです。そんな〝縛り〟が経営形態が変わった今でも残っているのか?と思ってしまうほど補強戦略は鈍いですね。

それこそ、新OB会長に就任する掛布氏に一喝してほしいものです。そんなんじゃあ、来年も巨人に勝てないぞ!と、大喝をお願いしたいですよ本当に。「オフはフロントの戦争」と言ったのは星野仙一さんでした。ストーブリーグで戦わないならば、そのツケは確実に来シーズンに支払うことになります。

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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