男子バレーはなぜ強くなった? バレー記者・田中夕子氏が語るパリ五輪の楽しみ方
産経ニュース / 2024年5月19日 10時0分
パリ五輪開幕まで約2カ月。注目競技の一つが、現在世界ランキング4位につける男子バレーボールだろう。1972年ミュンヘン五輪以来のメダル獲得へ、試金石となるのが21日開幕のネーションズリーグ(VNL)だ。著書「日本男子バレー 勇者たちの軌跡」(文藝春秋)がある、フリーライターの田中夕子氏に大会の見どころを聞いた。
《日本の男子バレーは昨年6月のVNLで主要国際大会46年ぶりの表彰台となる銅メダルに輝き、昨秋のパリ五輪最終予選(OQT)では強豪国を破って16年ぶりに自力で五輪出場権を獲得。なぜ強くなったのか》
「今、急に強くなったわけではなく、そこにつながる歴史があります。大きな契機は2014年。南部正司監督が就任して、当時大学生だった石川祐希選手や山内晶大(あきひろ)選手、高橋健太郎選手らを代表に抜擢(ばってき)。今につながる戦力がそろい出し、向かうべき方向に向かいだしたのが、現在日本の指揮を執るフィリップ・ブランさんがコーチに就いた2017年です」
《元フランス代表のエースだったブラン氏は、1986年世界選手権で最優秀選手賞を受賞。現役引退後はフランス代表監督として2002年世界選手権銅メダル、ポーランドの代表コーチとして14年世界選手権優勝へと導いた》
「世界トップレベルが集うヨーロッパはどう戦うのか。世界の強いバレーを見ている人だからこそ、そこに対して今の日本はどうかというのが分かる。知識と経験に加え、勝つためにどうすべきかをブランさんが明確に示してくれた。なおかつ、今はイタリアのセリエAでプレーする石川選手や高橋藍(らん)選手のように、海外で経験を積む選手たちがいるから吸収が早い。世界のトレンドの変化にすぐ付いていけるのが強みです」
《昨秋のOQTでは、チケットが即日完売。フィリピンでも一大ブームを巻き起こすなど、人気は急上昇している。今の日本男子チームの魅力は》
「単純に見ていてワクワクしませんか? 次何をするんだろう? なんでそのボール拾えたの? なんでそこにトスを上げたの? なんでこの攻撃に入っていたの? と、〝ポジティブなんで?〟がいっぱいあるのが今のチーム。選手個々の技術力が上がっているから、『何かやってみよう』という幅が増えるし、それだけのバリエーションを実行できるセッターの関田誠大(まさひろ)選手の存在が大きいと思います」
《VNLは国際バレーボール連盟(FIVB)が五輪、世界選手権に次ぐ主要国際大会と位置づけ、世界トップの16チームが頂点を争う。パリ五輪の出来を占う大会になる》
「すでに出場権を得ている日本にとって貴重な強化の場であると同時に、五輪で勝ち上がるためにも重要な大会になります。12チームが出場するパリ五輪の1次リーグは世界ランキングで振り分けられるため、1次リーグ突破を見据えて上位につけておく必要がある。現在の算出方法では、ランク上位に勝つとポイントが多く得られるシステム。ランク下位のチームにセットを奪われないことも重要になります。
21日からのブラジルラウンドで当たるアルゼンチンやイタリアは、まだ出場権を獲得できていない。五輪を見据え、本気で勝ちに来る強豪国にどんな戦いをできるかも注目点です」
《ファイナルラウンドに進めば約1カ月半に及ぶ長丁場を、日本代表は16人で戦う。チームとしての結束力を高める一方、代表選考としての側面も併せ持つ》
「今大会は1週ごとに14人を登録できますが、五輪本番は12人(プラス補欠1人)しか出場できない。4月下旬までイタリアでプレーオフを戦った石川、高橋藍の2選手は6月の北九州ラウンドから参加します。ブラジルラウンドでは、2人と同じアウトサイドヒッターの選手にとって、セレクトもかかる。シビアな12枠の争いも見どころの一つです」
《国内外のリーグはもちろん、高校年代から選手を取材してきた田中氏が、注目する選手は誰か》
「今季フランスのパリ・バレーでプレーした、オポジットの宮浦健人選手です。試合ごとに贈られる最優秀選手賞(MVP)を9回獲得し、五輪が開催されるパリで一番といってもいいほどの大歓声を浴びていた。ここ1、2年の伸び率が素晴らしく、試合に出続ける中で信頼を勝ち取った。体が大きくなり、飛躍力もつけ、ボールをたたく音がほかの選手と全く違う。1シーズン過ごし、どんな成長をしているか。同じポジションの西田有志選手と、どっちが出るんだろうというのも楽しみです。
ミドルブロッカーの高橋健選手も見てほしい選手です。東京五輪では最後の最後で落選を味わって、一度バレーをやめようとしていた時期もあった。そこからバレーに対する意識が変わり、いま誰が見ても日本選手の中で一番ブロックがいい。身体能力に頭脳がついてきた高橋健選手の戦いにも注目しています」
《選手たちはVNLで昨年以上の成績を目標に掲げる。その先に見据えるは、パリ五輪でのメダルだ》
「(パリでメダルを)取ってほしいし、取れる力はあると思います。今の選手たちは、できないことを大風呂敷を広げて話す人たちじゃない。その選手たちのほぼ全員が、7日の記者会見で『パリでのメダル獲得』を掲げていた。昨年のVNLでは、勝てばメダルの3位決定戦でイタリアに勝った。OQTもストレート勝利のみが条件だった第6戦のスロベニア戦でストレート勝ち。ここで勝てば、という試合を勝ち切れるのは強くなっている証拠。期待しています」
◇
田中氏の著書「日本男子バレー 勇者たちの軌跡」(税込み1870円)では、昨秋のOQTの激闘を軸に、石川や高橋藍ら日本代表を支える選手たちの半生を知ることができる。高校年代から取材を続けてきた田中氏だからこその視点が随所に織り込まれ、バレーボールの魅力に引き込まれる。今夏のパリ五輪を前に必読の一冊となっている。(運動部 川峯千尋)
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