見直しか、それとも「格式」か 5年ぶり「該当者なし」の沢村賞が問う厳しい選考基準
産経ニュース / 2024年11月2日 7時0分
プロ野球草創期の名投手だった沢村栄治氏(巨人)を記念し、レギュラーシーズンで最も活躍した先発完投型の投手を表彰する「沢村賞」の選考委員会(堀内恒夫委員長、元巨人)が開かれ、今年は「該当者なし」と決まった。1947年の制定以降、該当者がいなかったのは2019年以来6度目。今年は防御率1点台の投手が続出するなど近年の「投高打低」のプロ野球を象徴するようなシーズンだったものの、突出した数字を残す投手が現れなかった。先発、中継ぎ、抑えと〝分業制〟も定着する中、「沢村賞」の選考基準のあり方が今後の焦点となりそうだ。
堀内恒夫氏「一本化できず」
堀内氏ら5人の選考委員が記者会見場に現れたのは、会見開始予定時刻の約45分後だった。堀内氏は「該当者なし」となった選考結果について、苦渋の表情を浮かべながら説明を始めた。
「5人の委員から意見が出て、それを1つにまとめるのは大変時間がかかった。非常に難しい選考で、一本化することができなかった」
沢村賞の選考基準は、15勝▽150奪三振▽10完投▽防御率2・50▽200投球回▽25試合登板▽勝率6割―の7項目が設定されている。堀内氏の説明によると、今年はセ・パ両リーグで唯一15勝を挙げた菅野智之をはじめ、複数の項目をクリアした戸郷翔征(ともに巨人)、東克樹(DeNA)、有原航平(ソフトバンク)、伊藤大海(日本ハム)らが候補に挙がった。最終的には4項目をクリアした戸郷、3項目をクリアした有原の2人に絞られたが、一本化には至らなかったという。
平松政次委員(元大洋)は「選考委員を20年以上はやっていると思うが、これだけ時間がかかったのは記憶にない」と疲れの色をにじませた。
投手の「分業化」が定着
今年はセ・パともに「投手優位」が目立ったシーズンだった。規定投球回に達した防御率1点台の投手はセで5人、パでは1人の計6人。両リーグともに2点台の投手も続出した。だが、堀内氏からは「(現在のプロ野球は)投手優位の時代。残念だが、もうちょっと成績が上がってほしかった」と〝苦言〟を呈するひと幕もあった。
工藤公康委員(元西武、ダイエーなど)は、15年から21年までソフトバンクの監督を務めた。工藤氏は「分業制になったこの時代を考えると、『クオリティー・スタート』(QS=先発投手が6回以上を投げ、自責点3以内に抑えること)率を見ている」と個人的に重視した点を明かした上で、「そこを比較しても大きな差がなく、『ここがやはり優れている』というところが見つからなかった」と語った。
今シーズンは投球回では東の183、完投数では伊藤と小島和哉(ロッテ)の5が両リーグを通じて最多だったように、近年は投手の分業化が定着。それだけに「200投球回」「10完投」という沢村賞の選考基準は、よりハードルが高くなっているのも事実だ。
堀内氏は「やはり完投とか、イニングとかは少し考えていかないといけない。時機を見て、そういう話し合いになる可能性はある」と将来的な基準の見直しに言及する一方、「これは沢村栄治さんの賞。ある程度の格式、威厳を持って選考させていただきたい」とも持論を述べた。
沢村賞の選考基準をめぐっては、今後も議論を深めていくことが求められている。(浅野英介)
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