ついに欧州強豪と契約 パリ五輪ハンドボール代表・吉田守一、２３歳の野心と躍進

エースの安平光佑（右）と笑顔を見せる吉田守一。パリ五輪では２人の連携が注目される（宝田将志撮影）

規格外の躍進を続ける若者がハンドボール男子日本代表にいる。高校１年で競技を始め、わずか４年で欧州のクラブへ移籍。その後、海外挑戦４年で、フランスの強豪・ナントとの契約を勝ち取った。彼の名は吉田守一。パリ五輪で活躍が期待される２３歳は、どんな人物なのか－。

代表チームの練習では、吉田の姿をすぐ見付けることができる。ヘアバンドをしているからだ。「集中できる気がするんですよね、締め付けたら」。本人は自身のトレードマークについて、こう説明する。

身長１９３センチ、体重１１０キロ。吉田が務めるピボット（ポスト）のポジションは、攻撃時に相手ディフェンスの間に入って、パスを受けてシュートに持ち込んだり、相手選手をブロックして味方を攻めやすくしたりするのが主な役割だ。身体的な接触が多く、強靱（きょうじん）なフィジカルが求められる。日本人は外国人に比べて小柄な選手が多く、これまでピボットで国際的に通用する選手は、なかなか出てこなかった。

日本協会で強化を統括する荷川取義浩ハイパフォーマンスディレクターは「吉田は代表の中で競技歴が一番浅いけど、ポテンシャルはかなり高い。体幹が強く、ポジションをしっかり取れる。ヨーロッパに行っても負けていない」と評価。２１歳以下代表の嘉数陽介コーチは「みんな上の世代を見ている。高校生も海外に行きたいという選手が多くなってきている」と、海外でプレーする吉田らの影響を指摘する。

そんな吉田がハンドボールを始めたのは和歌山・那賀高に進んでから。小学生の時は空手に汗を流し、中学ではバスケットボール部に所属していた。「高校はバスケ部があまり強くなくて。僕自身は全国大会に出たかったんです。ハンドボール部は全国に出れそうだな、と」。春の全国選抜大会に出場して、卒業後、筑波大に進学した。

ハンドボールを始めた経緯とも関連するが、吉田の特筆すべき点は、その「上」への強烈な意志である。

大学では１年時から試合出場の機会を得て、２０２０年１月のアジア選手権で日本代表に初選出。ハンドボールを握って、たった４年で日の丸を背負うだけでも異例なのに、翌月には早くも海外に飛び出してしまう。「（卒業後の進路として）日本リーグは物足りない。ハンドボールの本場であるヨーロッパでプレーしたかった」。大学の先輩である徳田廉之介が所属していたポーランドのタルヌフに、自らの手で編集した自身のプレー動画を送り、契約に漕ぎ着けたのだ。

大学に籍を残し、オンラインの課題をこなすなどしながらポーランドで３シーズン、プレー。活躍が認められてフランスのダンケルクに移籍すると、１シーズンでナントに引き抜かれた。

ナントは１８年に欧州チャンピオンズリーグ（ＣＬ）決勝に進出し、来季もＣＬの出場権を確保している強豪クラブ。吉田はダンケルクとの契約が１年残っていたため、移籍に際してはナントが違約金を支払った。「僕もびっくりした。攻守（どちらでも活躍）できるのが大きいのかな。期待はされているのでは」と本人は受け止めている。

２度目の五輪となるパリ大会では、海外で積み重ねてきた経験が生きるはずだ。フランスリーグでは身長、体重とも吉田を上回る大柄な選手が珍しくない。普段からディフェンスで足を止めず、相手ピボットに押し込まれないポジションを取ることを意識してきたという。

攻撃面では、エース安平光佑（ＲＫバルダル＝北マケドニア）との連携が注目される。１９歳以下代表時代からコンビを組んできた同学年の２人は、３６年ぶりに自力で五輪アジア予選を突破した立役者であり、五輪本番では対戦国も警戒してくることは間違いない。

それでも、吉田は「ゴールできますね。間違いなく」と断言する。安平との連携も「バッチリじゃないですか？　まあ、２人だけだったら対策されて厳しい部分もあるので、周りもうまく生かしながら僕らが軸になってやっていければ」と自信を隠さない。

そして、こうも言う。「パリ五輪は次の（ナントの）監督に対するアピールの場でもある。次のチームのピボットはフランス代表で、世界でもトップの選手。ライバルとして僕の地位を確立できるようにしたい」。真っすぐな野心は、きっと日本チームの推進力になることだろう。（運動部　宝田将志）