メディアはテロに加担していないか、あるジャーナリストの謝罪 新テロ時代 二律背反②
産経ニュース / 2024年7月8日 7時0分
2019年3月15日、ニュージーランド・クライストチャーチでイラスラム教モスクが襲撃された銃乱射事件の一報を受け、ジャーナリストのパトリック・ガウワー(48)は首都ウェリントンから飛行機でクライストチャーチに飛んだ。
夕方には現場のモスク前でリポートに臨んだガウワーは、その日からクライストチャーチでイスラム教徒への取材を重ね、21年8月、一本のドキュメンタリー作品として放映した。
タイトルは『ON HATE』(ヘイトについて)。犠牲者の遺族や事件の生存者ら7人へのインタビューを中心とした1時間の番組だった。その中に、ガウワーが自身の責任と向き合うシーンがある。
事件の約1年前、カナダの著名な白人至上主義者、ステファン・モリノーら2人が、講演のためにニュージーランドを訪れた。激しい抗議活動で講演は中止され、ガウワーは批判の意味を込めて2人にインタビューを敢行した。だが結果としてガウワーの報道は、モリノーらの意見表明の舞台となってしまう。
銃撃犯のブレントン・タラント(33)は、アスベストで中皮腫を発症した父親が和解金として得た多額の遺産を相続し、白人至上主義や反移民を掲げる団体・個人にたびたび寄付を行っていた。その中に、モリノーも含まれていたのだ。
「私は間違っていた。間違っていたことを、認めなければならない」。ガウワーは番組の中でそう謝罪した。
ニュージーランドのニュースサービス「ニュースハブ」(Newshub)の全国特派員を務めるガウワーは、同国で抜群の知名度を誇るジャーナリストだ。そんな彼が自らの報道の影響と過ちを告白したことは、大きな衝撃をもって受け止められた。
× × ×
クライストチャーチの事件を巡っては、米国で映画化の動きが持ち上がっていた。銃撃の様子を生々しく描く映画の脚本草案を入手しスクープしたのは他ならぬガウワーだった。そして被害者の心情を考慮し、制作を中止するよう訴えたのだ。
「報道で重要なのはまず被害者。被害者がどう考えているかを伝える必要がある。2番目は同種犯罪が起きないよう原因を究明すること。そして最後に心掛けるべきは、メディアが犯人やその考えを肯定するようなプラットフォームになってはならないということだ」
× × ×
『壮大なる乗っ取り』(The Great Replacement)
タラントが犯行直前にオンライン上に公開したマニフェスト(犯行声明)の題名は、「移民による白人文化の搾取=乗っ取り」という白人至上主義者が好んで使う用語の一つだった。
タラントはノルウェーで77人を殺害したアンネシュ・ブレイビク(45)に影響を受け、タラントの犯行の約1カ月後には、タラントのマニフェストに感化された10代の白人の男が、米カリフォルニア州でユダヤ教礼拝施設を襲撃した。
ニュージーランド史上最悪のヘイトクライムに遭遇した現地主要メディアは、報道がテロとテロを結び、次のテロリストの揺りかごとなり得ることを理解し、自らはそれに加担しないよう意識的な報道に努めた。
ひるがえって日本では、令和4年7月に元首相の安倍晋三が銃撃されて以降、逮捕された山上徹也(43)の犯行動機が連日のように深掘りされ、一大政治問題と化した。
重大事件を前にすれば日本のように報道は過熱するのが常態といえる。対照的にニュージーランドメディアが抑制的に動くことができたのは、国民の理解があったからだとガウワーは言う。
「言論の自由もある。政府とメディアの対立もあった。でも、どうすればこの事態を避けられたのか、ニュージーランド人の一人一人が、この事件に向き合った。その結果だと思う」
(呼称・敬称略)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
山上とあるテロ犯 「名前」巡る彼我の報道格差 NZ銃乱射事件 新テロ時代 二律背反①
産経ニュース / 2024年7月7日 7時0分
-
観光客向け「ギャングツアー」まであるロサンゼルス...地図に載らない危険な境界線はどこか
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月4日 17時30分
-
ロシア南部のテロ事件 民間人4人、治安当局側15人が死亡 武装グループも死者5人
産経ニュース / 2024年6月24日 18時0分
-
ロシア南部で武装グループが教会など襲撃、治安当局と銃撃戦 13人死亡の情報
産経ニュース / 2024年6月24日 7時42分
-
デンマーク首相が路上で殴られる...「気に入らない政治家」への襲撃が相次ぐ欧州で何が起きている?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月8日 17時46分
ランキング
-
1石丸伸二氏「国政も選択肢」=広島1区に言及―都知事選
時事通信 / 2024年7月7日 21時56分
-
2【都知事選】「石丸2位」の衝撃!Xトレンド入り「マジか」「ネットが力を」「かなりの力」驚き
日刊スポーツ / 2024年7月7日 20時31分
-
3都知事選で3選確実の小池百合子氏「東京大改革をバージョンアップさせる」…支援者ら前にあいさつ
読売新聞 / 2024年7月7日 20時30分
-
4円安・物価高の一因「異次元緩和」の後処理策「資産課税くらいやらないと」 石川和男が指摘
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年7月7日 9時0分
-
5都議補選で自民党は2勝6敗、勝敗ライン4大きく下回る…萩生田前政調会長の地元・八王子も落とす
読売新聞 / 2024年7月8日 1時57分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください