長時間労働の温床、問われるタカラジェンヌのフリー契約 宝塚歌劇団女性急死から1年
産経ニュース / 2024年9月30日 8時0分
宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)の宙組劇団員の女性=当時(25)=が急死しているのが見つかってから、30日で1年。女性に強い心理的負荷を与えたとされる過重労働の背景として雇用形態のあり方が問われる中、実情は変わっていない。劇団員は入団6年目から自分の裁量で仕事を選べるフリーランス契約に移行するが、実態は歌劇団の指揮下にある。フリー契約は長時間労働などの温床にもなっており、歌劇団は転換を迫られている。
歌劇団では入団5年目までは雇用契約を結ぶが、6年目以降は「自分の時間で芸を高めるため」(歌劇団)として、歌劇団と劇団員個人が業務委託契約を結ぶフリーランスに変わる。死亡した女性は7年目だった。
雇用契約上の労働者であれば、労働基準法などの法律により、勤務時間や業務量の把握、残業代の支払いなど安全かつ健康に働くための配慮義務が雇用主に生じるが、フリーについてはこうした法律上の制約が少ない。
劇団員たちはフリーになっても、歌劇団の方針に従って稽古や舞台に臨む。労働者に当たるかは雇用主の指揮命令下にあるかどうかで判断されるため、労災問題に詳しい生越照幸弁護士は「フリーの劇団員も、労働者であることに議論の余地はない」との見解を示す。
歌劇団は女性の急死後、安全配慮義務を果たしていなかったことを認め、劇団員の心身の管理体制を強化してきた。稽古のための劇団施設への入退館時間の記録、カウンセリングルームの常設のほか、公演数も削減するなど、劇団員の負担軽減に取り組んだ。
一方、雇用契約について、村上浩爾理事長は7月、報道各社の取材に「今までの(歌劇団運営の)根幹にかかわることで、議論はしている」と述べるにとどまる。
こうした中、歌劇団は今月5日、西宮労働基準監督署(同県西宮市)から是正勧告を受けた。歌劇団は今のところ勧告内容を公表していないが、フリーの劇団員が事実上の労働者に当たるとして、労務管理の不備を指摘されたとみられる。
雇用主にとり、フリー契約は社会保険料などの「負担」がなく、不当な労働環境の温床にもなっている。「労働者としての実態がありながらフリーランス契約を結ぶ問題は近年、さまざまな業界で増えている」と生越弁護士。「歌劇団は法律に則した労働実態となるよう、対応しなければならない」とも指摘した。(田中佐和、藤井沙織)
宝塚歌劇団の劇団員急死問題
兵庫県宝塚市で令和5年9月30日、宙組劇団員の女性が自宅マンション敷地内で死亡しているのが見つかった。自殺とみられる。歌劇団が設置した外部調査チームは過重労働は認める一方、上級生によるパワーハラスメントは「確認できなかった」と結論付け、遺族側が反発。歌劇団側は今年3月末、パワハラを認めて遺族側に謝罪、補償などについて最終合意した。
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