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観客を呼び込むアートは「夢」を見せ、人間の「進歩」を問いかける 万博未来考 第4部(4)

産経ニュース / 2024年12月19日 7時0分

1970年大阪万博は、国内外からアート作品が集う「美術博」としての顔を持っていた。多くの観客を呼び込んだアートだが、次の万博でも理念や私たちを取り巻く課題を考えさせる役割を担う。

1969(昭和44)年11月、開幕を控えた大阪万博の会場にスペインの著名な美術家、ジョアン・ミロ(1893~1983年)の姿があった。ガス・パビリオンに完成した縦5メートル、幅12メートルの陶板でできた大壁画「無垢の笑い」を前にしたその表情は、喜びに満ちていた。

陶板は陶芸家、濱田庄司(1894~1978年)がスペイン東部の町に造らせた窯で焼かれたもの。日本とスペインの芸術家による作品に、ミロは記者会見で「会心の作だ。いろんな民族が握手する万国博で私の作品を見てもらえるのはうれしい」と述べた。

美術の「知」総動員

「月の石」といった物珍しい展示品に、ワイヤレステレホンなど未来の技術の見本市でもあった大阪万博だが、ミロの大壁画だけでなく、著名な美術作品が一堂に会した「美術博」という一面を併せ持っていた。

エジプトの「ツタンカーメン王立像」や、ルーベンス「十字架のキリスト」、レンブラント「老人の肖像」、ダリ「煮豆のある柔らかい構築、市民戦争の予感」-。万博会場に設けられた4階建ての「万国博美術館」には、古代から現代までの彫刻や著名画家の作品が国内外から集められた。展示品数は700点を超え、会期中に延べ約177万人が訪れたという。

展示構成を検討する国際会議のメンバーにはフランスのルーブル美術館館長をはじめ、英国テート美術館美術部長、ベルギー文化庁長官、当時国立西洋美術館主任研究官で後に文化勲章を受章する美術評論家の高階秀爾らが名を連ねた。

「美術史家や大学の先生、気鋭の研究員から前衛美術家までが総動員され、『知』を結集して作った美術展だったようです」。「無垢の笑い」や万国博美術館の展示作品を引き継いだ国立国際美術館(大阪市北区)の島敦彦館長はそう話す。大阪万博が掲げた「人類の進歩と調和」というテーマの下、アートは人を呼び込む誘い水になると同時に、多様な文明と国際協調のシンボルとしての役割を担った。

大阪を拠点に世界的に活躍する美術家の森村泰昌さんは「夢があるから人が集まる。前の万博は芸術が示す夢のおかげで人を呼び込むことができた」と指摘する。万国博美術館のような施設がない2025年大阪・関西万博だが、彩るデジタルアートは見る者にどんな夢を抱かせてくれるのだろうか。

近未来の社会体感

自分の姿を映し出す特殊な膜で作られた鏡に来場者が話しかけると、専用アプリにデジタル化された自分のコピーが生成される。「自分」と会話したり、相談したり-。メディアアーティストの落合陽一さんが手掛けるパビリオンのデジタルアートは近未来の社会を体感する機会になる。

加速度を増して進化する人工知能(AI)などに囲まれた環境に生きる私たち。落合さんは昨年、産経新聞に寄せた文章の中で、作品の意図について「デジタルヒューマン(人間のデジタル化)をより社会インフラとして強靱化する」と説明した。デジタルアートは見る者に「人類の進歩」の在り方をも問いかけるものになる。(正木利和)

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