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万博会場、夢洲の防災対策は万全か 台風や地震想定、人工島で孤立の恐れも

産経ニュース / 2024年8月28日 19時52分

台風10号が日本列島に襲来する中、来年4~10月に開催される2025年大阪・関西万博でも、台風や豪雨、地震などに対する防災対策が課題となっている。会場となるのは大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)で、島外とのルートは3つだけ。想定を超える被害が出た場合は島が孤立し、最大15万人が孤立する恐れもある。万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)は、安全な万博を実現する責任を果たせるのか。

「来場者目線に立った安全面の検証と対策の構築に、協会一丸となり最優先で取り組んでもらいたい」。8月6日、夢洲を視察した斎藤健経済産業相は協会職員に対し、このように訓示した。

万博はピーク時には1日最大22万7千人の来場を想定。協会は大規模災害の対応策として昨年12月、「防災基本計画」を決定した。これを基に近く、具体的な対策を盛り込んだ「防災実施計画」を策定する方針だ。

基本計画では、関西で大きな被害が出た平成30年9月の台風21号並みをベースに、最大瞬間風速58㍍以上と1時間69㍉の雨を想定。夢洲には1時間60ミリの雨に対応する排水設備があるものの、降水量がそれを超えると「建物1階部分から浸水する可能性」があるという。

台風による高潮の災害想定としては、予想水位を海面からの高さ最大7・7メートルとみている。夢洲は海面から高さ11メートルまでかさ上げされていることから、協会は「会場の大部分については浸水しない想定」とする。

万博のシンボルとなる大屋根(リング)については「高さがあることから、他と比べて落雷の危険性が高い」。会場周辺で雷の発生が予想される場合は来場者を大屋根に上らせないようにする。

対岸と夢洲を結ぶのは「夢舞大橋」、「夢咲トンネル」、大阪メトロ中央線の計3ルートしかない。荒天が予想されたり、鉄道が計画運休したりする場合、協会は会場を閉園する方針。早期に適切なタイミングで閉園を決断できれば孤立の危険性は少なくなる。

また、基本計画は南海トラフ巨大地震で会場の予想最大震度を6弱と想定。パビリオンなどについては「新築で耐震設計されており、倒壊・崩壊する可能性は低い」(協会)とする。津波に対して夢洲は予想水位の5・4メートルを超えるかさ上げをしているため、被害は限定的だとしている。

地震の場合は橋などのインフラが破壊される事態が開園中に発生することが懸念される。協会は、橋やトンネルは耐震化されているため「致命的な被害発生の可能性は低い」としている。それでも、会場北側の船着き場を利用し、船舶での避難手段を確保する。

1日の来場者のうち出入りの分を除き、7割にあたる15万人の帰宅困難者が孤立した場合を想定し、当初は場内の飲食店などの食料を提供し、以後3日間は場内に備蓄する60万食で賄う。

これらの対策を具体的に定める実施計画について、協会担当者は「大型テーマパークなどの防災計画も参考に、国や自治体とも相談しつつ検討を進めている」と話す。

過去の台風被害、関空浸水の教訓

万博協会の防災基本計画では、過去に関西に大きな被害をもたらした2つの台風被害をモデルケースにしている。このうち平成30年9月の台風21号では、夢洲と同じく大阪湾に位置する関西国際空港で利用者約7800人が一時孤立し、人工島の脆弱(ぜいじゃく)性をあらわにした。大阪港で過去最高の潮位(瞬間値)の3・29メートルを観測し、護岸を海水が乗り越えるなどして関空は滑走路を含む広範囲が浸水した。

さらに対岸と関空を結ぶ連絡橋に強風で流されたタンカーが衝突し、道路と鉄道が不通となった。関空のターミナルビルでは一時停電も発生し、孤立した利用者は高速船やバスのピストン輸送で島外に避難した。

もう一つの事例は、昭和36年9月の第2室戸台風。暴風や高潮の被害が大きく、大阪市内は高潮により約31平方キロメートルが浸水。全国で194人が死亡し、住宅は計約6万2千棟が全半壊した。

大阪府の津波・高潮ステーションは「大阪は大阪湾の最も奥にあるため、台風による高潮被害が発生しやすい地形」と指摘する。万博会場でもこうした地理的特性を考慮した防災が必要だ。(井上浩平)

関西大社会安全学部・永松伸吾教授(防災・危機管理政策)

台風など事前にある程度予測できるリスクに対し、閉園により対応するという考え方は支持できる。しかし、現行の計画では、閉園をどのようなタイミングや根拠により、誰が判断するのかという点が明確でない。

1日に20万人を超える来場者を見込むイベントについて、閉園する判断はかなり重たい。赤字のリスクもささやかれているならなおさらだろう。

また、現行の計画は、それぞれの災害事象のリスクについては想定しているが、それらが複合する事態を十分に想定しているとはいえない。

例えば、万博開催中の真夏に南海トラフ巨大地震が発生した場合、どのような事態が想定できるか。安全確認ができるまでは主要アクセスの橋は通行できず、地下鉄も停止し、夢洲は孤立する。そこに酷暑が加われば、熱中症患者がとてつもない数になる恐れがある。

備蓄物資があるからとか、船で避難させる計画があるからといって、計画にある最大15万人が孤立するリスクを冒していいわけではない。事前に決めた基準に従い、厳格な判断が求められる。(聞き手 井上浩平)

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