船井電機破産、不可解な資金の流れ 出版社が買収後3年半、347億円の現預金ほぼ枯渇
産経ニュース / 2024年11月11日 22時8分
「世界のFUNAI」と呼ばれ、海外でも高い知名度を誇った電機メーカー、船井電機(大阪府大東市)が10月24日、東京地裁から破産手続きの開始決定を受けた。給料日の前日に従業員約500人全員が一斉に解雇されるという事態に日本中に驚きが広がった。2021年に出版会社に買収されて以降、約300億円の資金が流出していたとみられ、破産へと至る経緯を巡り謎が深まっている。
「20年以上勤めた船井のブランドがなくなってしまうことがショック。経営陣は社員に真実を話す責任がある」
ハローワーク門真が11日に開催した、船井電機元従業員の再就職を支援する説明会に参加した男性(46)はそう訴えた。突然解雇された元従業員を雇用しようと多くの企業が手を挙げ、約800社、約2千件の求人をまとめた冊子が訪れた人に手渡された。
船井電機の破産は、60年以上の歴史を持つ老舗メーカーとしては異例の幕切れだった。10月24日午後、本社で集められた約500人の従業員に弁護士から会社の破産と一斉解雇が通達された。
船井電機のような規模の会社が民事再生法や会社更生法によって事業再建を図らず、取締役会などの決議を経ない準自己破産の手続きをとるのはきわめて珍しい。帝国データバンクの担当者は「企業のノウハウも人材も散逸してしまう。大企業でこのようなケースは見たことがない」と驚きを隠さない。
破産申立書などによると、船井電機の21年3月末時点の現預金残高は約347億円あった。しかし、今年10月25日に予定していた従業員への給与計1億8千万円を支払うと、運転資金は1千万円を下回るというほぼ枯渇した状態となっていた。約3年半の間に一体何があったのか。
船井電機は21年5月に出版などを手がける秀和システムホールディングス(HD)に買収され、非上場となった。テレビ事業の不振により営業赤字が常態化していた中、創業家が会社を再成長させられる経営者を探し、秀和の代表取締役の上田智一氏が選ばれた。
船井電機の社長に就任した上田氏は「事業の多角化」を掲げ、23年4月に全国で脱毛サロンを展開する「ミュゼプラチナム」を買収。しかし、約1年後の24年3月にミュゼを売却している。これ以降、不可解な事柄が浮かび上がってくる。
5月から役員の入れ替わりが相次ぎ、「従業員すらよくわからない人物が入ってきていた」(帝国データバンク担当者)。9月にはミュゼの広告代金約22億円の未払いが発覚し、同27日には上田氏が社長を退任した。9月末時点ですでに原材料の仕入れ代金が支払えず、工場の操業が停止していたという。
破産申立書では、持ち株会社を経由したミュゼなどへの貸し付けで、船井電機から約300億円の資金が流出したとしており、これが破産の要因になったとみられる。ミュゼ買収を巡っては、横浜幸銀信用組合(横浜市)から資金が貸し付けられている。一方、秀和による船井電機の買収資金の一部はりそな銀行が貸し付け、船井電機の預金が担保となっており、今年5月に回収されている。
M&A(企業の合併・買収)に詳しい公認会計士の久禮(くれ)義継氏は「買収の手段の一つで、スキーム上、特に不自然なところはないように見受けられる」と話す。ただ、船井電機が持ち株会社である船井電機HDに約253億円を貸し付けていたことについて「グループ全体を統括する持ち株会社が子会社に貸し付けるのが普通。金額もきわめて多額で、違和感がある」と指摘する。
中央大の青木英孝教授(企業統治)は「単なる事業の失敗か、何らかの不正があったのかを外部から判断するすべはないが、買収にあたって船井側は秀和をよほど信じていたんだろう。いざというときにブレーキを効かせる手段を考えておくべきだった」と述べた。
「テレビデオ」が大ヒットも、価格競争に敗北
船井電機は創業者の船井哲良氏が1951年に創業したミシンの卸問屋を源流とする。61年にトランジスタラジオの製造部門を独立させて船井電機を設立した。
音響機器からビデオデッキ、コードレス電話機などに手を広げていく中で、ターニングポイントとなったのが85年に発売したテレビとビデオデッキ一体型の「テレビデオ」だ。
低価格で、しかもほかの日本メーカーと遜色のない機能で大ヒットを記録。米小売り大手のウォルマートと組み、90年代後半から2000年代にかけて大きく伸長し、北米ナンバーワンの60%超のシェアを獲得した。
しかし、その後は中国メーカーとの価格競争の激化で経営が悪化。一時期は連結売上高4千億円に迫っていたが、近年は営業赤字が続いていた。
それでも「FUNAI」ブランドの復活を目指し、創業者の哲良氏が国内家電量販大手のヤマダ電機とテレビ事業での提携を主導。17年7月に亡くなる直前まで仕事に取り組んだ。
21年5月の秀和システムHDによる買収は、テレビ事業からの脱却を模索した結果だったが、わずか3年半で破産する事態となってしまった。(桑島浩任)
近畿大経営学部の中村文亮准教授(M&A)「安すぎる日本企業、株価上げる努力必要」
今回のケースは、当事者でないと経営戦略の失敗か、企業の資産を吸い上げるのが目的の「吸血型M&A」か判然としないのが難しい点だろう。ただ、出版社が電機メーカーを買収する経営合理性が見えないなど気になる点はある。秀和システムに任せて本当に船井電機が再建できるかをもう少し慎重に見定める必要があったのではないか。
根本的な問題として日本の企業が安すぎることがある。船井電機には買収額を上回る約347億円の現預金があったとされている。つまり、買収すればそれだけでもうかってしまう。これでは買収側は経営を再建する必要性がない。(船井側は)株価を上げる努力をもっとしなければいけなかったし、現預金を事業の芽を育てる投資に回しておくべきだった。
また、株式についてもすべて売却してしまうのではなく、創業家がある程度保有して口を出せる状況をつくっておけばよかったのではないか。一般的にはそういうケースが多い。株式をすべて握られてしまうといざというときに何も対抗できない。船井側の脇が甘かったといえるだろう。(聞き手 桑島浩任)
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