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餌まで天然資源の守ることを考える近大の養殖魚が万博へ 経済ヨコからナナメから

産経ニュース / 2024年10月8日 7時0分

2025年大阪・関西万博の会場に、近畿大学とサントリーホールディングス(HD)が養殖魚専門店を出店する。世界で初めて完全養殖に成功したクロマグロ(商標・近大マグロ)が味わえると話題になりそうだ。日本では天然魚を養殖魚の上とする天然信仰が根強いが、近大は国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)に合致する完全養殖は欧米でこそ評価されるとみており、万博は近大の養殖技術の可能性を世界が知るきっかけになる。

「完全養殖魚など多様な生物資源を活用した未来の食文化を世界に発信する」

9月12日、近大が大阪府東大阪市の東大阪キャンパスで開いた報道関係者懇談会で、世耕石弘経営戦略本部長は万博への出店について、こう力を込めた。

近大とサントリーHDが東京・銀座や大阪・キタで営業する養殖魚専門店「近畿大学水産研究所」の万博会場店の位置づけ。近大マグロだけでなく、近大が2種類の魚を掛け合わせて開発し、味の良さや成長の早さなどの特長を持つサラブレッド魚(交雑魚)も提供。クエとタマカイを掛け合わせた「クエタマ」やイシダイとイシガキダイを掛け合わせた「キンダイ」などが楽しめる。

近大水産研究所の升間主計(ますましゅけい)所長は「コンセプトは完全養殖魚という持続可能な食料を提供し、日本の高い技術で育った養殖魚を世界の人々に味わっていただくこと」と説明する。1970年大阪万博で近大の出展は養殖魚の水槽展示だけだったが、今回は近大が養殖し、持続可能な水産物供給の実現などを目指すSCSA認証を取得した魚を提供するのが特徴だ。

近大の養殖魚はすでに味の評価が高い。

その背景には独特の研究スタイルがある。通常の魚類研究は生物学的に誕生させ、生育すると終わるが、近大では「おいしい」といわれるレベルまで試行錯誤を続けるのだ。先に養殖に成功したタイやハマチなどを売って研究費を工面してきた近大では研究者が市場関係者からアドバイスを受け、餌を工夫するなどして品質向上につなげてきた。かつて取材した東京・銀座の老舗すし店の店主は「近大マグロは養殖で泳ぎが足りないので天然モノとひと味違うが、脂が乗ってトロ好きの方なら満足されると思う」と語った。

そもそも完全養殖とは天然の幼魚を海で捕獲し、成魚に育てて産卵させ、人工孵化(ふか)で生まれた次の世代を成魚に育てて産卵させるサイクルを繰り返し、天然資源を使うことのない2周目からのことを言う。通常の養殖は幼魚を捕獲して出荷サイズに育てる畜養と呼ばれる手法で、天然資源を使うことに変わりはない。

さらに完全養殖も天然サバなど生餌を与えていては天然資源を損なっていたことから近大は令和元年、生餌ではなく、人工配合飼料で育てた近大マグロをレストランでデビューさせた。ただ、升間所長は「配合飼料はまだ魚粉を使い、天然資源を消費していることに変わりはない。魚粉をすべて植物性タンパク質に置き換え、無魚粉飼料だけで養殖する完全な完全養殖を目指したい」としていた。

5年を経て、研究の進捗(しんちょく)状況を取材すると、無魚粉の配合飼料の開発は難航しているという。配合飼料を工夫してクロマグロを養殖するのには限界があることが分かり、無魚粉や低魚粉の飼料で成長するマグロやブリの系統を選抜するアプローチに切り替えた。魚粉の割合が低くても成長する個体を見つけ、養殖につなげる取り組みだ。

将来、近大は米ニューヨークへの直営店出店を目指す。SDGsに合致するとともに、生まれや育ち、何を食べてきたかなどを管理し、完全なトレーサビリティー(履歴管理)を実現した完全養殖魚は食の安全の意味で広範囲を遊泳する天然魚より信頼性が高いといえるからだ。餌のレベルまで天然資源の保護を考える近大にとって万博は世界につながる舞台になる。(松岡達郎)

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