ローカルメディアの星 大阪の「ひらつー」 地元ネタ満載 「読者が知りたい」で月間300万PV
産経ニュース / 2024年8月2日 10時30分
「あの行列は何」「出身の有名人は」-。人口約40万人の大阪府枚方市で、地域に密着した情報発信で親しまれているウェブメディアがある。地域情報サイト「枚方つーしん(通称ひらつー)」。誰かに伝えたくなるネタをゆるく発信し、月間ページビュー(PV、閲覧数)は300万超。「ひらつー」を参考に運営しているサイトもあるといい、業界では国内ローカルメディアの草分け的な存在として知られる。ユーザーファーストに徹し、地域と読者をつなぐ。
情報提供多数
「東牧野町にドラッグストアができるみたい」
7月17日にアップされた記事。出店予定地と概要標識の写真とともに、地元ならではの話題を淡々と伝えていた。開店や閉店といった生活情報は市民の関心がとりわけ高い。
「力を入れているコンテンツ」と話すのは、ひらつーを運営する「morondo」代表取締役の原田一博さん(43)。ちなみに、グーグルの検索順位で「枚方 開店」は堂々の1位だ。
市内に無数にある飲食店や商業施設。ネット上の求人情報からも把握するが、多くは読者からの情報提供という。「ありがたいことに『まずひらつーに伝えよう』という流れができている」。担当ライターが現場に足を運ぶなどして情報の確認は欠かさない。
この時期、アクセスが目立つ枚方の夏祭りのスケジュール一覧記事にも読者からの情報を反映させた。情報提供は月300件に上る。
内容盛らない
ひらつーの立ち上げは平成20年。当時は個人ブログの体裁で2年後から同社の事業として運営している。開店・閉店のほか、グルメや身近な話題などを一日平均9本アップ(記事広告含む)する。とある枚方市民のひらつー評は「知らなくても問題ないが、知っていたら得するような『へ~』と思う雑談ネタを扱っている感じ」。
「地域愛」などはうたわない。「『地元で何かないかな~』と隙間時間にアクセスしている人が多い」と原田さん。「発信側に熱い思いがあっても、受け取り手のテンションは必ずしもそうじゃない。読者の興味に反応し、共有することがポイント。結果的に枚方を好きになってもらえればいいなと思うだけ」という。
もっとも、新型コロナウイルスの感染拡大期には、枚方グルメのテークアウトを特集ページで紹介。受難の飲食店のために一肌脱いだ。
そんなひらつーは主に広告収入で支えられている。いずれも広告表記をした上で記事として掲載。読み物としてもおもしろい内容が多く、購買などにもつながっているという。広告は1本の記事から請け負う。
特に不動産は高い買い物になるため、子育て世代のスタッフがきめ細かな視点でリポートし、ありのままを伝える。「盛った」記事を書いても、目の肥えた読者に見抜かれるからだ。
姉妹サイトも
同社が直に運営する媒体はひらつーのほか、姉妹サイトとして、ともに月間100万PVの寝屋川つーしんや高槻つーしんなど。やはり地元情報を深く紹介しており、ひらつーよりも後発だが、認知度も高まってきている。
地域名を冠した「○○つーしん」などローカルメディアは全国で数多くみられるが、立ち上げに関わったり、コンサルティングを担当したりしたサイトもあるという原田さんによると、ひらつーがはしりという。
直接的なかかわりがなくてもひらつーを参考に運営しているサイトもあり「パイオニアとしてリスペクトをしてもらっている」ととらえている。
「パソコンを開いてひらつーを読む人は全体の約1割」と、近年はスマートフォンでの見せ方を特に意識する。
Xやインスタグラムなど交流サイト(SNS)での発信を強化。公式ラインでは、週3回注目記事が厳選して届けられる。今後は動画配信にも本腰を入れる。「コンテンツとしては求められているが、欲しい人に届かないようなことは避けたい」と原田さんは言う。
将来的に府内全域の自治体をカバーする形で地域情報サイトの展開を目指す。
取材は複数回、手際よく
7月17日、枚方つーしんのライター、モモさんの取材に同行させてもらった。
訪ねたのは開店初日の「お食事処 気まぐれ屋」(大阪府枚方市高田)。モモさんは「オープンしてる」の記事を書くという。ひらつーは同じ店でも何度か取り上げる。「(店が)できるみたい」→「できた」といった具合だ。
入店し、ひらつーの取材だと告げると、オーナーの本城由貴さん(36)は驚きつつも「以前取り上げてくれていたので、改めて来てくれるかなと思っていた」と表情を緩めた。
取材は5分足らず。「撮影写真からお店の雰囲気と座席、提供する料理が分かれば十分なので」。週に30~35本の記事を書くため、手際の良さが求められる。
中には「常連さんだけで十分」と取材を断られることもあるが、「そういうときは無理をしない」(モモさん)。もっとも、宣伝効果に期待する店がほとんどだ。本城さんも「できるみたい」の記事を店のインスタグラムで紹介していた。
モモさんは「『載せてもらってありがとう』と言われるのがやりがい」と話す。
ローカルメディアに詳しい摂南大の松本恭幸准教授
タウン情報誌やフリーペーパーの衰退が顕著だが、地域の生活情報ニーズは依然根強い。結婚して家庭を築けばそうした情報が必要になるが、大阪府枚方市は人口40万人規模のベッドタウンであり、子育て世代が多いのも「枚方つーしん」が支持される要因だろう。
スマートフォンでいつでもアクセスできる手軽さは、地域情報サイトが全国で活況であることにも通じる。地域の読者以外にもコンテンツが届くため、関係人口を創出しながら広がりを見せているといえる。(矢田幸己)
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