三英傑の心に火をつけた鉄の街 堺の鉄炮鍛冶は「分業制」で発展 ふらっとホーム堺
産経ニュース / 2025年1月28日 10時30分
堺市といえばやはり「鉄炮の街」だ。戦国時代、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康ら多くの武将たちが「鉄炮」を求めてこの地を訪れ、「堺を制する者は天下を制する」とまで言われた。1543(天文12)年、種子島に南蛮船が漂着。乗っていたポルトガル人によって伝えられた鉄炮がなぜ、堺で作られるようになったのだろう。昨年3月から一般公開が始まった『鉄炮鍛冶屋敷』(堺市堺区)を訪ねて勉強開始だ!
江戸時代を再現
南海電鉄の「七道(しちどう)駅」を降りて東に300メートルほど行くと、「鉄炮鍛冶屋敷」(井上関右衛門家)がある。数年前に井上修一、俊二兄弟から堺市に寄贈されるまで本当に住んでいた―というから驚きだ。
屋敷の中は部品を組み立てて完成させる「仕上場」、商談や取引を行った「みせの間」、奥には鉄を鍛えて銃身をつくる「鍛冶場」があり、江戸時代の様子がうかがえる。
さて、なぜ、鉄炮作りが種子島から堺へ伝わったのか―。1543年、領主の種子島時尭(ときたか)は2挺の鉄炮をポルトガル人から購入し、地元の鍛冶に複製をつくらせた。このことを聞きつけた人物が堺の商人・橘屋又三郎。すぐさま鍛冶に弟子入りして製法を学び、堺でつくるようになったのだ。
「堺は古墳の時代から鍬(くわ)や鋤(すき)など鉄製品をつくってきた町ですから」と今回も笑顔でガイドしてくれたのが堺観光ボランティア協会の和田千香さんだ。
橘屋又三郎は「鉄炮又」と呼ばれ、堺でつくった鉄炮を全国各地に売り込んだ。ちょうど同じころ、紀伊国の津田監物も種子島時尭から鉄炮を1挺購入して持ち帰り、根来(ねごろ)(現在の和歌山県岩出市付近)の芝辻清右衛門に複製をつくらせた。のちに清右衛門は堺へ移り住み、堺が鉄炮生産の中心地になったのである。
「大坂夏の陣で徳川方に味方した堺の町は豊臣方によって焼かれてしまいます。でも、徳川時代に天領となった堺で鉄炮鍛冶は《五鍛冶》として幕府の庇護(ひご)を受けるんです」
五鍛冶とは徳川方に味方した鉄炮鍛冶で「芝辻理右衛門家」「芝辻長左衛門家」「榎並屋勘左衛門家」「榎並屋九兵衛家」「榎並屋勘七家」の5家。あれっ、井上関右衛門家が入ってない?
「そう、井上家は五鍛冶ではなく江戸時代に新規参入した後発の鍛冶屋さんです。でも、後発だから太平の世になって大きく発展したんですよ」と和田さん。
五鍛冶はいわば幕府お抱えの鉄炮鍛冶。格式も高く他の大名も注文がしにくい。その点、井上家は各大名から修理の依頼や注文にすべて応えていた。おかげでどんどん技術が高まっていく。
「太平の世になり鉄炮の需要も低くなったとき、大名たちは数ではなく立派な象眼の入った装飾品としての鉄炮を求めるようになります。応えたのが井上家。それに井上家は賃金先払いで職人たちから人気があったんです」
いつの世でも《人の心》を捉えた者が勝者となる。そう、堺にはこんな逸話がある。戦国時代の三英傑、信長、秀吉、家康の性格を「うぐいす」で例えた話は有名だが、堺は「鉄炮」で例えている。
家康は黙って商人の言い値で買う。秀吉は「端数を切れ」と値切る。信長は「値段はオレが決める」といい放つ。傲慢? いえいえ、そして信長は3~4倍の値をつける。だから堺の商人はこぞって信長に鉄炮を売ったのである。
さて、最後に読者のみなさんはもうお気づきだろう。堺市では「鉄砲」を火へんの「炮」にしている。火をおこして鉄を鍛える。そして火縄銃を指す言葉として「鉄炮」と表記。そのこだわりが「堺」のよさだ。
製造は分業制
堺の鉄炮作りは、鉄を打ち最も大事な「銃身」をつくる《鉄炮鍛冶》、それを支える「銃床」をつくる《台師》、「火挟」「火蓋」などカラクリをつくる《金具師》の3部門に分かれている。
専門的になれば技術が向上する。そして分業制にしていれば「鉄炮全体の技術の流出」を防ぐことができるからだ。
トン・テン・カン 音のこぼれ話
「鉄炮鍛冶場では3人の職人さんが焼けた鉄を打ちます。トン・テン・カン!といい音が響きます。ときどき、新米さんが入って打ち間違えると音が変わるんです。トン・チン・カンに」
「この頃の鉄炮の玉は鉛で作った丸い玉。当時、鉛は高価で今の値段にすると1個1万円ぐらい。だから、撃った後でみんな拾いに行ったんです。堺の砲台から北へ撃った玉がたくさん出た場所があるんです。どこだと思います? 玉出(大阪市西成区)です」と超まじめな顔でおっしゃるのだ。おもしろい!
現在は「自転車」の街に
「堺」といえば自転車の街。そこでメイドイン堺の自転車を使った周遊タクシーが誕生。運転手さんがガイドしながら堺の名所を走ってくれるのだ。「古墳」エリアや「鉄炮鍛冶屋敷」「さかい利晶の杜」「与謝野晶子の生家跡」「ザビエル公園」「堺伝匠館」「妙國寺」などの各名所や老舗和菓子店や有名割烹料理店―と、いろんなコースが組める。(田所龍一)
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