「大人になったら『律』と同じピッチで」 地元・尼崎で未来の「10番」育てる兄、堂安優 アマ物語

今回は「子供たちに夢を！」と頑張る、尼崎出身の２人を紹介しよう。１人目は元Ｊリーガーの堂安憂さん（２８）。日本代表の背番号「１０」をつける堂安律選手の２歳上のお兄ちゃんだ。ＪＲ尼崎駅前の大型商業施設「あまがさきキューズモール」屋上で子供たちにサッカーを教えている。２人目は米ニューヨークを本拠地に活躍するジャズドラマーの庄本キョウヘイさん（４１）。日本でのライブで、舞台に子供たちを上げドラム演奏も体験してもらっている。「子供たちの目の輝きが好き」という２人の〝夢〟を聞いた。

ブルーに紺のラインが入ったユニホーム。子供たちが目を輝かせてボールを追い、フットサルのコートを元気に走りまわっている。サッカー教室の名前は『ＮＥＸＴ１０　ＦＯＯＴＢＡＬＬ　ＬＡＢ』。この教室から次（将来）のエース、背番号１０をつける選手を―という思いがこもった名前だ。

「それは大きな目標です。この子たちが大人になって、もし律と同じピッチに立ってプレーすることができたら最高じゃないですか」と堂安憂さんも目を輝かせる。

現在、４５０人が通う。小３～小５、小６～中２の２クラス制。各２０人で週１回だ。７人のスタッフで教えており、海外（ドイツ・ブンデスリーガ・ＳＣフライブルク）で活躍している堂安律選手も帰国した際には一緒にプレーしてくれるという。

「子供たちにはサッカーの面白さや楽しさを知ってもらいたい。そしてサッカーを通して、人間にとっての大切なものを学んでほしい」

子供のころの憂さんは「やんちゃな子」だったという。中学生のときにはけんかもよくあった。だが、どんなに誘われても一緒に行かなかった。

「ボクにはサッカーがあったから…。もし、あの時に行っていたらケガをしたかもしれないし、人にケガをさせていたかもしれない。サッカーにはずっと感謝しています」

憂さんの本当の「夢」は、この教室で教えた子供たちと将来、一緒にご飯を食べに行くこと―という。「ちゃんとした大人になって『自分のやりたい仕事をやっています！』と胸を張って言ってもらいたい。変な夢ですか？」。とんでもない。すばらしい夢である。

弟への思いは

弟・律さんへの嫉妬心は？と尋ねた。

「よく聞かれます。本当に全くないんです。小学生のときからこいつは違う―と認めていましたから。律は嫌な物でも一生懸命食べていたし、筋力トレもさぼったことは１度もない。サッカーに関して１００％妥協しない」。ただ、ここまでの選手になれたのは「１度〝挫折〟したから」という。

「律はセレッソ大阪のＵ－１２に落ちたんです。それでガンバ大阪のＵ－１２に行った。あのとき１度、鼻を折られたから、何くそっ！という気持ちが起こった。今の律があるのはセレッソさんのおかげだと思います」。兄はよく見ている。

◇

故郷を音楽の街に

庄本さんは故郷・尼崎の街にもっと音楽を響かせたい―という。とはいえ尼崎にはけっこうイベントホールがある。阪神尼崎駅前の「あましんアルカイックホール」は庄本さんの日本でのフランチャイズ。昨年に続き、今年２月には庄本さんプロデュースによる、安保徹氏（Ｔｓ）、佐藤公淳氏（Ｔｓ）、続木徹氏（Ｐｆ）、山本学氏（Ｂａ）とのジャズコンサートが行われた。

「大きなホールではなく、街のジャズ喫茶や駅前などでの路上演奏だけでもちゃんと生活していける。みんなが音楽を愛しめる―そんな街にしたい」

その思いから始めたのがジャズコンサートでの「ドラム体験講座」だ。尼崎市の協力のもと、市内各地域にある「生涯学習プラザ」を利用し、子供たちに生のジャズ演奏を聞いてもらい、そのあと舞台で実際にドラムをたたいてもらう―というもの。昨年４月には「園田」で、今年１月には「小田南」で開催している。

「小太鼓はたたいたことがあっても、ドラムセットをたたく機会はそうない。はじめはおっかなびっくりの子供たちも、ちゃんとたたき方を教えてあげると、ピアノやベースに合わせてたたけるようになるんです」。庄本さんはその時の、子供たちの目の輝きが好きだという。

子供たちの「夢」のきっかけになれば…。１３歳のころにドラムをはじめた庄本さんは「夢」を追いかけた。２９歳のときニューヨークへ単身渡米。現地で活躍する世界的なドラマー、田井中福司氏に弟子入りしたのである。それから１２年…。庄本さんは次の夢に向かって歩き始めている。（田所龍一）

◇

庄本さんのコンサート情報などはインスタグラム（＠ｋｙｏ＿ｎｅｗｙｏｒｋ０６１９）で。