<朝晴れエッセー>8月月間賞は「冬瓜の思い出」 胸に迫る緩急、複雑な心理を表現
産経ニュース / 2024年9月21日 7時0分
朝晴れエッセーの8月月間賞に、椿尾妙子さん(64)=大阪市天王寺区=の「冬瓜(とうがん)の思い出」が選ばれた。筆者が母親を突然亡くしたときの出来事を振り返った作品。葬儀が終わった後の複雑な心理の表現や、緩急のある構成が評価された。選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん、岸本佳子・産経新聞大阪本社夕刊編集長。
岸本 おふたりとも「冬瓜の思い出」を選ばれていますね。門井先生は◎。
門井 この作品のテーマは母親の死ではなく、その後の日常の回復なんですね。最後にある「気の張り通しだった日々の終わりを唐突に感じ、少し涙が出た」。非常に複雑な心理をこの一文で表している。自分の心の中で起きたことを丁寧に見つめ、それを簡潔な文章で書き示した。心理的な描写という点でも、それまでの話の進め方という点でも、文句のないものです。
玉岡 張り詰めていた緊張が、冬瓜を食べるシーンで緩む。この緩み方が胸に迫ります。緊張の部分だけが書かれた作品はよくありますが、絶妙な緩急の付け方にうなりました。◎にするか悩んだ作品です。
岸本 私の◎は「お盆の風」。山寺を取り巻く状況を、年月や季節の流れとともに淡々と書かれているのですが、退屈ではなくて、静けさがずっとあって…そこにひかれました。読みながら心が落ち着いていくエッセーだなと。玉岡先生も選ばれていますね。
玉岡 過疎化が進む中で、お寺を、ご先祖を守っている方の作品。風は緩やかになったり、やんだりしながらも吹き続ける。お盆独特の風の中に、年月の歩みと歴史のつながりを感じました。子供の頃の追憶からは、古き良きお盆の風景を垣間見ました。
岸本 8月は戦争にまつわる作品がたくさん届きました。幼い頃の記憶や両親に聞いたお話を、今、残さなければという皆さんの強い気持ちを感じます。
玉岡 私はその中から「バシー海峡と父」を◎にしました。これまでさまざまな戦争体験に触れてきましたが、バシー海峡のことは知りませんでした。ネットで調べられるのは今の時代ならでは。筆者の父親のお話で、体験者本人ではなく、間接体験が語り継がれる時代になったのだと改めて感じますね。
岸本 「やっと会えたんだ」は、筆者の伯父が戦死されたレイテ島についてでした。
玉岡 「カンギポット山」が口伝で「カニホット山」になっていたというのがリアル。こちらもネットが活躍していますが、検索した筆者の行為が尊い。タイトルに込められた意味の重さを感じました。情報化の時代が謎を解き、歴史をつないだんですね。
門井 僕は「真昼の静寂」を選びました。著者が経験した学童集団疎開の生活が克明に描かれている。前半はラッパに先生の訓示にと音であふれていたのが、玉音放送の後にパタッとやむ。音のない情景を「一枚の絵」と表現したのが秀逸です。前半に音の洪水があってこそ、最後の静寂が生きている。
玉岡 これが当時の日本の、全国共通の情景だったのでしょうね。それをスケッチのように描かれたことで、たくらまずとも対比につながったのではないでしょうか。
岸本 実際に体験した人ならではの文章なんでしょうね。「命の水」は、熱中症という緊迫したお話ながらどこかコミカルで、不思議な作品でした。
門井 最初から最後までスピーディー。受け止め方によってはホラーになる話を、ファンタジーに寄せて書かれた。92歳でこの文章の安定感はすごい。仏壇に供えた水を飲んで、「仏様が助けてくれた」といった余計なことを書かないのがいい。
玉岡 岸本さんは、父親について書いた作品を選んでいますね。
岸本 「父と私」は、どの家族にもドラマがあるんだなと思わされました。妻を連れて30年ぶりに再会した父は、目が見えなくなっていた。はた目には”普通”に見える家族にも、家族にしか知り得ないドラマがあって、エッセーでそれを読ませていただいているんだなと改めて感じました。
玉岡 50代は、家族の関係を修正できる最後の年代なのかもしれませんね。「猛暑の夏の過ごし方」は、作家というより本好きとして、書いてくれたことに感謝です。
門井 本にまつわる生活を描いた作品ですね。一昔前の習慣に忠実で、現代の話なのに、電子書籍も、オンラインショップのレコメンド(お薦め)も出てこない。フェアの目録をもらって印を付けながら買う本を決めるなんて、僕が二十歳の頃にやっていたことですよ。非常に安定した世界が作られていて、この人が長年、この生活を続けていると分かる仕掛けになっています。
岸本 新聞の書評を見てくださっているのがうれしいです。さて月間賞は悩ましいですが、玉岡先生も◎にするか悩まれたという「冬瓜の思い出」でしょうか。
玉岡・門井 そうですね。そうしましょう。
受賞の椿尾さん「亡くなって知る親の恩」
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