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久石譲さんが音楽監督に就任 日本センチュリー交響楽団の「未来」描く鍵は伝統と現代性

産経ニュース / 2024年11月8日 19時0分

スタジオジブリの映画音楽を手掛けたことでも知られる久石譲さんが来年4月、日本センチュリー交響楽団(大阪府豊中市)の音楽監督に就任する。久石さん自身「経済的に大変なオケ」と評する同楽団。作曲家、指揮者としての手腕に加え、知名度による集客も期待される久石さんは、楽団の”未来”を描くキーワードとして伝統と現代性を挙げた。

ファン縮小への危機感

日本センチュリー交響楽団の起源は昭和27年に誕生した「大阪府音楽団」。平成元年に財団法人下で交響楽団として生まれ変わり、翌年に「大阪センチュリー交響楽団」と命名、府から多額の補助を受けていた。

しかし、府の財政悪化に伴い自立を求められ、平成23年に「日本センチュリー交響楽団」として独立、その後も資金面で厳しい運営が続く。演奏会などの収入だけでは支出分をまかないきれず、独立時の「貯金」は使い果たし、国、自治体の補助、民間からの寄付で運営が成り立っている。

10月20日に豊中市内で行われた久石さんの就任会見で、同席した桜井博志理事長はファンの「縮小」にも言及。「お客さまはお年寄りが多い。もっともっと広く、いろんな人たちに楽しんでもらえるクラシックにしなければいけない」と危機感を隠さなかった。

個性を作る

久石さんは作曲家としてクラシックファンからの評価は高く、ジブリ作品をはじめとする映像音楽の分野でも高い知名度を誇る。桜井理事長は「数万人規模のコンサートを開催できる人は、世界の中でも久石さんしかいない」と語り、大きな期待をのぞかせた。

楽団を取り巻く現状を変えるために何をするか。久石さんは「客を呼ばなければいけない。それだけの個性を作らなければいけないが、そんなに簡単にできることでは全くない」。一方で、突破口となりうる個性として、団員が約50人と比較的小規模な「室内オーケストラ」である点を挙げた。

「(大規模編成の)オーケストラは車で例えればダンプカーみたいなもので、急に回れない。室内オケはスポーツカーでスピード感とキレがいい。それをこのオケは実践できる。みんなで協力しながら、一人でも多くのお客さんをつかんでいきたい」

海外進出「今は無理」

演奏会の基本方針として示したのは、クラシック音楽の伝統と現代性の融合だ。会見の場で発表された令和7年度の定期演奏会(全8回)のプログラムは、毎回ベートーベンやシューベルトらが作曲した古い作品と、久石さん自身の曲を含む1950年以降に作られた作品とで構成されている。

その狙いについて、「現代音楽だけを演奏するコンサートをやっているケースは多いが、現代音楽が好きな人しか来ない」と久石さん。「きちっと過去からつながって現在があり、現在から未来につながる(演奏会にする)」。クラシック音楽の歴史とたゆまぬ変化を、定期演奏会という楽団の日常の活動の中で触れてもらう趣向だ。

桜井理事長からは世界進出を期待する言葉も飛び出たが、記者からそのロードマップを描けるか問われた久石さんは、「今は無理ですね。西洋音楽だから、向こう(西洋)で演奏している人たちを凌駕するのは、そんなに簡単じゃない」ときっぱり。

ただ、「このオケはクラシックの伝統を持っている。それを引き継ぎ、現代性と合わせて両輪になるようにきちんと運営していく」と静かに語った。その言葉には、確かな戦略と、日本のクラシック音楽界の未来を背負う決意がにじんでいた。(渡部圭介)

久石譲(ひさいし・じょう)

昭和25年生まれ。国立音楽大在学中、同じような旋律を反復する「ミニマルミュージック」に興味を抱き、現代音楽の作曲家として活動を始めた。2023年にドイツのクラシック名門レーベルから出した初のCD「A Symphonic Celebration」は米ビルボード・クラシック・アルバム&クラシック・クロスオーバー・アルバム・チャートで2度の1位を獲得。「風の谷のナウシカ」(昭和59年)「となりのトトロ」(同63年)などの音楽を担当したことでも知られる。近年は指揮者としても活動している。

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