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岐路に立つAMラジオ、FM転換見据え実証実験 災害対応は…地域によって課題も

産経ニュース / 2024年9月4日 20時0分

一部のAMラジオ局で、FM局への転換を見据えた実証実験が2月から行われている。AM放送を止め、難聴地域対策で導入した「FM補完放送(ワイドFM)」のみにすることへの影響を調べる。莫大な施設維持費が負担となっているAM局は、低コストのFM局への転換を急ぎたい事情がある。平成23年の紀伊半島豪雨や今年1月の能登半島地震の被災地のような山間部では、FMによるカバーには課題も多く、在阪局は実験に加わっていない。災害時の情報の命綱であるラジオ。地域によっては経営環境とのはざまで岐路に立つ日々が続きそうだ。

実証実験は岩手▽茨城▽新潟▽石川▽福井▽岐阜▽愛知▽三重▽山口▽愛媛▽福岡▽佐賀▽熊本▽鹿児島―を放送エリアとする13局が行っている。期限を区切ってAM放送を止め、FM補完放送に切り替えた。

補完放送はAM放送の難聴対策で始まった。AM波はビル街などでは聞こえにくい。FM波は建物の影響を受けづらく、災害などを見据えてAM各局は平成26年から順次FM補完放送を始め、AM放送と同じ内容をFMでも流してきた。

一方、ラジオ局は広告収入の低迷に直面している。電通によると令和5年のラジオ広告費は1139億円で、25年前の約半分。大規模な送信施設が必要なAM放送の維持コストは大きな負担だ。

施設が小規模で、アンテナも鉄塔上部や山頂に設置できるFM補完放送は低コストであり、渡りに船。日本民間放送連盟の要望で、総務省も令和10年にはAM局がFM局に転換できる制度を整える見通しとなっている。

ただ、情報を得るのに省電力で場所を選ばないラジオは災害時に強く、現状のAM放送の広大な聴取エリアを、FMでカバーする必要がある。実験を行っている局のうち山口放送(KRY、山口県周南市)は、県内各地に補完放送の送信施設を整備してきた。FMでAMエリアのほぼ全てをカバーできるといい、「FMへの転換の早期実現を目指す」とする。

一方、在阪AM局は実証実験を行っていない。ある局の関係者は「現在の放送エリアをカバーするにはFMの送信施設が相当数必要。コストが見合わない」と話す。

在阪局がFM補完放送の送信施設を置く、大阪と奈良の府県境の生駒山からの電波は、起伏に富む地形から大阪北部(北摂)の人口が多い地域でも届きにくいエリアがあるとみられ、別途FMの送信施設が必要になる。紀伊半島南部など山間部のカバーも課題だ。

AM放送の代替手段として、総務省の有識者会議はインターネットでラジオが聞ける「radiko(ラジコ)」も俎上に載せるが、放送とタイムラグがあり、「緊急性を要する避難の呼びかけが遅れて届いては意味がない」と関係者。「経営上の体力を考えるとAM放送の維持が大変なのは確かだが、なくすになくせない」と打ち明けた。

広大な敷地に施設老朽化…更新も重荷に

AM放送の維持が大きな負担となっているのは電波の発信元となる送信施設に、広大な敷地と巨大なアンテナを必要とする、広範囲に電波を届けられるAM放送ならではの事情がある。

AMの送信施設は100メートルほどの高さのアンテナに加え、それを中心とした地中には「ラジアルアース」と呼ばれる、長さ100~150メートルのケーブルが放射線状に埋められている。設備の保守管理に加え、固定資産税といった広大な敷地を維持する費用も大きな負担になる。

各局にとって避けられないのが送信施設の老朽化だ。電波を止めて現地で建て替えるわけにはいかず、別に土地を確保する必要性がある。

鉄塔の上部や山頂などにアンテナを設置するだけで済み、低コストのFM放送にも課題はある。今年1月の能登半島地震では停電と道路の寸断で山中の送信所に電力や燃料を供給できず、停波が約3週間にわたったケースもあった。

ただ、総務省地上放送課によると、送信所の更新にかかる費用は「AMは数十億円、FMは数千万円」と桁違いの差がある。AMの未来は不透明だ。(藤井沙織)

住田功一・大阪芸大教授「災害時の命綱をどう守る」

ラジオ放送を取り巻く経営環境は大変厳しくなった。放送事業を継続するために、国や事業者が環境を整えることは非常に大切だ。だが、放送の根幹が安易に崩されるようなことがあってはならない。地震などの災害時において、電気や水道、ガスなどの「線」でつながっているライフラインは一時的に切れる可能性があるのに対し、電波は切れない。特にAM波は海も山も越え、遠く離れた場所まで届く。孤立した地域では情報源として、また精神的な支えとして命綱になる特性を持つ。

「radiko」などインターネット配信が放送の代替手段になるのかどうかは慎重な判断が求められる。事業継続のための制度整備とともに、命綱としての放送をどう守るのかも検討しなければならない。ラジオを聴く人が減少する中、国民の関心は薄い。国民がもっと注視して、判断すべき問題でもある。事業者は実証実験の結果を地域に対して積極的に公表してほしい。(大阪芸術大教授=メディア論、元NHKアナウンサー)

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