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朝比奈隆さんが初タクト振った「ガスビル」 講演場閉館後も残る「食と文化の社交場」の礎 「昭和100年」だヨ全品集合 大阪ガス編

産経ニュース / 2024年9月13日 11時0分

最終章は『大阪ガスビル物語』―。昭和8年に竣工した大阪ガスの本社が「大阪ガスビルディング」(大阪市中央区平野町)である。ガスビルの名で親しまれる本社ビルには600人収容の「講演場」があり、能楽やクラシックコンサート、映画鑑賞会、寄席などが行われていたという。そして現在も親しまれる本格的欧風料理の「ガスビル食堂」。ガスビルは「文化と食の社交場」だったのだ。でもなぜ、ガス会社がそこまで? 今回はガスビル食堂の波々伯部(ほほかべ)泰典マネジャー(53)に話を聞いた。

モダン都市開花

大正から昭和初期、人口が急拡大した大阪は「大(だい)大阪」と呼ばれ、モダンな都市文化が花開いた。昭和8年3月、拡張工事が進む御堂筋沿いに白亜の「大阪ガスビル」が完成。5月には梅田―心斎橋間に大阪初の地下鉄が開通した。

「当時は〝モダンシティー大阪〟といわれ、その代表的な建物がガスビルでした」と波々伯部さんは少し胸を張った。いやいや誇張ではない。当時のガスビルでは百貨店のようにエレベーターガールが案内してくれていた。

2階から4階までは3層吹き抜け、600人収容の「講演場」。最新の照明器具や映写機が備えられたホールでは演劇や音楽コンサートなどが行われた。人気を博したのはデビュー早々の朝比奈隆指揮によるコンサート。そして「さよなら、さよなら、さよなら」のフレーズで有名な映画評論家、淀川長治企画の名画試写会だ。

「朝比奈さんは著書の中で『私が初めてタクトを振ったのはガスビルホールです』とおっしゃっているんですよ」と波々伯部さん。ホールでは当時、大人気の漫才師「エンタツ・アチャコ」の漫才も演じられた。こんなエピソードが残っている。

大阪ガスから出演依頼を受けた吉本興業では「ガスビルのお客さんは上品で、笑いたくても笑いをかみつぶすから」と乗り気ではなかったという。だが、エンタツ・アチャコの漫才は大爆笑。吉本興業の演芸は大評判を呼んだのである。

冒頭の疑問―。なぜ、ガス会社がこんな施設を建てたのだろう。

「当時はまだまだ都市ガスの認知度が低かったんです。いつもと違う装いでガスビルに来てもらって、映画やコンサートを楽しみ、そのあとは8階のガスビル食堂で本格的な欧風料理を楽しんでもらう。都市ガスでこんなにモダンで豊かな暮らしや生活が実現できるんですよ―ということを体験してもらうためのビルだったんです」

戦前、戦中、戦後と大阪のシンボルであり続けた「大阪ガスビル」も昭和40年4月に「講演場」が閉館。その後は「ガスビル食堂」と「クッキングスクール」だけを残しオフィスビルに変容した。41年、北館が完成。平成15年に南館、ことし3月に北館がそれぞれ「登録有形文化財」に登録された。

あとは眠りにつく? いやいや、現在の「ガスビル」の隣に33階建ての「西館」を建設予定で、その後に「ガスビル」のリノベーションが行われる計画だ。

「そうなれば、また以前のように多彩な用途でたくさんの人たちが集まり、楽しめるガスビルが復活するかもしれません」と波々伯部さん。どんなビルになるのか、いまからワクワクする。

創業時からの伝統は今も

昭和8年、ガスビル完成とともに最上階の8階で開業。当時の案内には『生駒連峰の爽やかな眺め、大阪城の天守閣が眼前にそびゆる和洋展望食堂』とある。残念ながら今は高いビルが立ち並び、生駒連峰も大阪城も見えないが、どっしりとした落ち着きのある雰囲気は変わらない。

8階でエレベーターを降りると食堂の玄関で支配人の筒木康之さんが迎えてくれた。

中に入ろうとして驚いた。入り口の真鍮(しんちゅう)製の敷居がピカピカに輝いている。なんと従業員が徹底的に磨きあげているという。「これも創業時からの伝統です」と筒木さん。伝統といえば、食器やグラスなどに入っている「すずらん」のデザインは大阪ガスのシンボルフラワー。すずらんは、ガス灯を覆うガラス製の筒「火屋(ほや)」にその姿が似ているからだ。

波々伯部マネジャーによれば、開業以来の〝伝統の逸品〟のひとつが、コース料理につく名物「生セロリ」。創業当時は大阪ガス会長の片岡直方(なおまさ)が「本物の西洋料理にはセルリー(セロリ)は欠かせない」と種子を米国・カリフォルニアから取り寄せて自家栽培したという。

万博にも出展

懐かしい写真。昭和45年の大阪万博に出展した「ガスパビリオン」。当時、筆者14歳。「なんでガスやのに蚊取り線香の豚の置物なん?」と思ったが、大人になってテーマが『笑い』で、豚の顔ではなく笑っている顔―と知った。来年開催の大阪・関西万博にもガスパビリオンはある。テーマは『化けろ、未来!』。おばけワンダーランドだそうな。(田所龍一)

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