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映画タイトルになった「尼ロック」 建設契機は海抜0㍍地帯を襲ったジェーン台風の悲劇 アマ物語

産経ニュース / 2024年6月13日 10時0分

「尼ロック」とは尼崎ロックンロールのことではない。正式名称は「尼崎閘門(こうもん)」。英語読みでロックゲート、だから「尼ロック」。ことし4月に公開された映画『あまろっく』で多少認知度は上がったものの、まだ知らない人の方が多い。昭和30年、日本で初のパナマ運河方式の閘門として建設された。でもなぜ、こんな閘門が尼崎に必要だったのだろう。それを知るには、74年前の〝あの日〟の尼崎に戻らなくてはならない。

大雨のたび浸水

昭和25年9月3日、四国、近畿地方を巨大台風28号が襲った。「ジェーン台風」である。猛烈な雨と風。尼崎の海岸線には3・6メートルの高潮が押し寄せた。尼崎市の南半分が浸水。死者22人、28万人の市民のうち24万人が被災するという大災害となった。

胸まで水に漬かり、泳いで市役所にたどり着いて陣頭指揮に当たった当時の市長、六島誠之助は「天災にあらず。人災なり!」と叫んだという。南部地域の工業化によって街は発展したものの、工場の地下水のくみ上げで地盤が沈下。市内の3分の1が海面より低い「ゼロメートル地帯」となった。大雨が降ると川は氾濫し、尼崎の町はそのたびに浸水した。

六島は「もう中途半端な対策では無意味である」と訴えた。そして海岸線を含めて尼崎の南全部をすっぽり覆ってしまうような巨大防潮堤でなければ、水害は防げない―という結論に達した。

とんでもない構想である。見積もりでは工費約20億円。赤字財政が続いていた尼崎市にそんなお金はなかった。六島は国や県に額を地面にこすりつけるようにして陳情した。結果、国が4割、県と市が3割ずつ負担することで決まった。その交渉を陰で支えたのが尼崎信用金庫の第4代理事長になった創業者・松尾高一である。

26年に着工。30年に幅5~9メートル、全長12・4キロの巨大防潮堤が完成した。以後、尼崎市には高潮による大きな被害はほとんどない。その防潮堤の真ん中に位置し、治水、防潮、そして水位の違う「海」と「運河」の安全な船舶運航の3つの役割を担っているのが「尼ロック」。映画『あまろっく』のお父ちゃんのように家族の安全を守る頼もしい存在なのである。

いつでも通過可

5月のある日、「尼ロック」を通過する船の写真の撮影に出かけた。兵庫県尼崎港管理事務所施設課の伊野晃平副主任が「運が良ければいいですね」とほほ笑んだ。なんと、いつどんな船舶が通過するのか、予定は決まってないという。

1年365日、いつでも通過可能。もちろん無料。伊野さんによれば「どんな船でもOK。ボートでもカヌーでも」という。そういえば映画『あまろっく』の冒頭のシーンで、家族3人が白鳥の足こぎボートで「尼ロック」を通過しているが、本当にOKなのだ。 平成17年に完成した集中コントロールセンターから係員が24時間、目視で監視しているという。昼過ぎ、海の方から1隻の小さな船が向かってきた。すると海側の門が開き始めた。ところが、船は直前でUターン。冷やかし? 「けっこういらっしゃいますよ」と伊野さんは穏やかにいう。

そうこうしていると、運河の方から大型の貨物船がやってきて通過。すると今度は海側から、運河クルーズのボートがお客さんを乗せて通過していった。いい写真が撮れた。運がいいのかな。きっと「尼ロック」の優しさだろう。

ロケ地マップも

映画『あまろっく』の上映を受け、あまがさき観光局は市内各所で「ロケ地マップ」を配布している。実は兵庫県先行上映が始まった4月12~14日に『世界で一番早い 映画あまろっく聖地巡礼 ロケ地ウォーク』を開催した。うれしがり? ホンマ気の早い、けどそこが「アマ」のええとこやん。

笑って泣ける「あまろっく」

「尼崎企画」の取材をしていると、どこへ行っても映画『あまろっく』のポスターが目についた。阪神電鉄梅田駅や尼崎駅。尼崎市立歴史博物館、市役所、観光局…。筆者も兵庫県民(川西市)なので、4月12日からの先行上映を見に行った。いやぁ、笑った。泣いた。なんとも心地よい気持ちにさせてくれるええ映画である。

物語は尼崎市内で町工場を営む家族のお話。「人生に起こることは何でも楽しまな」といつも笑ってるお父ちゃん・近松竜太郎(笑福亭鶴瓶)。東京の大企業をリストラされ実家に戻ってニート状態の39歳の娘、優子(江口のりこ)。

ある日、お父ちゃんが「再婚します!」と連れてきたのが20歳の早希(中条あやみ)。「これからは3人家族団欒(だんらん)や」と喜ぶ早希に「団欒という字もよう書かん小娘が…」とぶつかる優子。そんな2人がある事件をきっかけにお互いを理解するようになっていく。

家族とは何か。お父ちゃんの存在とは…と考えさせられる。そうや、お父ちゃんはいつも言うてた。「わしは一家の尼ロックや」と。(田所龍一)

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