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文楽の竹本織太夫と鶴澤清馗「息の合った演奏を」 対照的な兄弟が念願の共演

産経ニュース / 2024年6月22日 13時0分

世襲ではない人形浄瑠璃文楽では珍しい実の兄弟、竹本織太夫(49)と三味線の鶴澤清馗(43)。これまで舞台ではあまり組むことのなかった2人が6月29日、大阪市中央区の国立文楽劇場で開かれる太夫と三味線だけの「文楽素浄瑠璃の会」で、「卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)・平太郎住家より木遣り音頭の段」を勤める。実力派の中堅太夫として弟の成長を見守ってきた織太夫は「やっと兄弟でできるタイミングがきた」と喜ぶ。

それぞれの道で

祖父は三味線の二代目鶴澤道八、伯父は三味線の人間国宝、鶴澤清治と〝文楽一家〟で育った。幼少期から自然と浄瑠璃にひかれ、太夫と三味線弾き、それぞれの道で芸を磨いてきた。

織太夫はここ10年ほどは鶴澤燕三らベテランの三味線で研鑽を積み、期待の若手から次代のトップランナーへと一気に駆け上がった。その間、清馗との共演はほぼなかったが、令和2年の若手素浄瑠璃の会で「河庄(かわしょう)」を兄弟で勤める機会があり、「『ええ三味線弾きになったな』と思ったんです。いやこれはホンマに」。厳しい太夫と優しい兄、両方の顔でほほ笑む。

「織太夫」ゆかりの名曲

太夫の最高位「切場語り」ら実力者がそろう今公演での兄弟共演は、それ以来温めてきた念願だった。選んだ演目は人と柳の精の異類婚姻譚「卅三間堂棟由来」、通称「柳」。江戸から明治期に美声で人気を博した六代目竹本綱太夫が、二代目織太夫時代に初代豊澤新左衛門の三味線で語ってはやらせた「織太夫」ゆかりの名曲だ。

主人公のお柳(りゅう)は柳の精。血の通った人間でも動物でもない、植物の幻想的な透明感を表現するのが太夫も三味線も難しいとされる。

織太夫は師匠の豊竹咲太夫(今年1月死去)に「『幽霊じゃないけども、柳の精やということを意識して言葉を言わなあかん』と教わりました。ちょっとあやしい音階に持っていくというか」と説明する。清馗も「師匠(清治)の音はさえわたっていて、でもちょっと優しい感じもする。あの音に少しでも近付きたい」と意欲を燃やす。

名曲と言われるゆえんは、お柳の本体である柳が切り倒されて運ばれてゆくクライマックスで歌われる「木遣り音頭」にある。

1度目は<和歌の浦には名所がござる>と木を曳く人夫が威勢よく歌う。「どこまで音が上がるの、というほど華やかにやるのが綱太夫系の語り方」と織太夫。

ところが、愛息と駆け付けた夫の平太郎が妻への思いをしおれ声で歌う2度目は、旋律は同じなのに哀切に満ち涙を誘う。この対比の妙が聴かせどころで、清馗は「派手に弾く1度目が楽に思えるほど、2度目は一音一音のきれいさに神経を使います」と緊張する。

性格は正反対

義太夫の演奏は太夫と三味線が互いに力をぶつけ合う。舞台上では火花を散らす2人だが、プライベートでは仲良し兄弟だとか。

「いつも僕が一方的にしゃべって、弟はじっと話を聞いてくれる」と織太夫が言うように、性格は例えるなら兄が太陽、弟が月と対照的。だが、よく飲食店で鉢合わせたり同じ服を着ていたり通じ合うところがあるといい、「好みが一緒」と顔を見合わせて笑う。

清馗は「舞台の上でも、兄が考えていることは何となく分かる」と言う。織太夫も「浄瑠璃が仲良くなってはいけませんが、兄弟ならではの息の合ったところは見せられるんじゃないかと思います」と期待と自信をにじませた。(田中佐和)

6月29日午後1時開演。ほかに竹本錣太夫と鶴澤藤蔵が「伊賀越道中双六・沼津の段」、竹本千歳太夫と豊澤富助が「菅原伝授手習鑑・丞相名残の段」。国立劇場チケットセンター(0570-07-9900)。

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