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名棋士・阪田三吉、朝ドラ「ふたりっ子」 ゆかりの大阪・新世界で最後の将棋クラブ閉店へ

産経ニュース / 2024年6月20日 11時30分

大阪市浪速区の繁華街・新世界で唯一残る老舗の将棋クラブ「三桂(さんけい)クラブ」が、今月末で閉店する。明治から昭和初期に活躍した関西を代表する名棋士、阪田三吉(1870~1946年)ゆかりの地で将棋文化を支えてきたが、新型コロナウイルス禍による来店客の減少や店の老朽化などが重なり、80年近い歴史に幕を下ろすことになった。

新世界のシンボル・通天閣の下には、阪田の功績をたたえる王将の駒をかたどった記念碑がある。将棋ファンの聖地とも呼ばれ、NHK朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」の舞台としても知られる。三桂クラブは、その一角の商店街「ジャンジャン横丁」にあり、「席主」の伊達利雄さん(59)の祖父が戦後まもない頃に創業した。1970年代には複数の将棋クラブが立ち並んでいたが、愛好者の減少などで現在残るのは同店だけ。1時間300円、1日滞在しても千円の席料で営業を続ける。

昭和の佇まいを色濃く残す店内には、使い込まれた約50面の将棋盤や囲碁盤が並び、常連客らが白熱した対局を繰り広げる。その様子を通りからガラス戸越しにのぞき込む人もいる。祖父、父から3代目の席主を受け継いだ伊達さんは「かつては1階が満席になって、2階も使うほどだった。閉店時間を過ぎても対局に熱中するお客さんがいた」と懐かしむ。

客の大半は常連で、何十年と通う人も多い。真剣勝負の醍醐味を求めて、週末には関東や九州など遠方から泊まりがけで足を運ぶ人もいるという。席主が対戦相手を決めるのが店の伝統だが、「これが一番難しい」と伊達さん。「長年続けていると、初めて来るお客さんでも雰囲気で大体の棋力がわかる」が、単に段級の棋力を合わせればいいわけではない。客の性格や相性、どんな対局をしたがっているのかなども考慮して対戦相手を決めていく。

「うちは昔から、大企業の社長さんや医師、弁護士も来れば、日雇いの人も来る。盤をはさんでの勝負は誰もが対等で、そこがいいところ。対局が終わったあとに、『また、やりましょう』『楽しかった』という言葉を聞くのが一番うれしい」と話す。

閉店を考え始めたのはコロナ禍の前だ。インバウンド(訪日客)の増加で人通りが変わり、外国人観光客が多くを占めるようになった。そこにコロナが襲いかかった。

店内では密を避けるために盤を間引いたり、1つおきに使ったりした。消毒を徹底し、営業時間も短縮した。だが、緊急事態宣言が繰り返されるたびに、客が離れていった。「うちは何十年とやってきた店だから、お客さんの年齢層が高く、客同士のつながりも強い。それが切れると…」。感染法上の位置づけが5類に移行しても、客足は元には戻らなかった。一方で、新世界の界隈は今、コロナ禍前よりも訪日客でにぎわう。

街の変化、戻らない客足、店の老朽化…。経営は成り立っているものの、「いろんなことが重なり、そろそろ潮時かなと思った。寂しいけど時代の流れ」と閉店を決めた。常連客らに告げると涙ぐむ人もいたという。

20年以上通う常連客の藤原広志さん(81)=大阪市浪速区=は「閉店を聞いたときは信じられなかった。多趣味でダンスや詩吟なども楽しむけど、将棋や囲碁はこれで卒業かなあ。寂しいね」と話す。別の男性客も「千円で朝から晩まで気持ち良く遊べた。これから、どうしようか…」と閉店を惜しんだ。

「お客さん一人一人と大切な思い出がある。長い間かわいがっていただき、感謝の思いでいっぱい」と伊達さんは感慨深げに語る。最終日の30日も普段通りに営業するつもりで、その後どうするかは決まっていないという。

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