スポーツ紙記者から転身の宮司 「万人を優しく迎える場所に」 尼崎・貴布禰神社 アマ物語
産経ニュース / 2024年7月8日 10時30分
尼崎に〝おもしろ宮司さん〟と呼ばれる人が2人いる。一人が300年以上の歴史を持つ「貴布禰神社」(尼崎市西本町)の17代目宮司・江田政亮さん(55)。中、高、大学とキリスト教系の学校・関西学院出身。そして、もう一人が「尼崎えびす神社」(同市神田中通)の女性宮司、太田垣亘世(のぶよ)さん。元客室乗務員(CA)。何かおもしろい物語がありそう。まずは貴布禰神社を訪ねた。
記者から転身
貴布禰神社の江田宮司はがっしりとした体つき。一見、怖そうだが笑うと人のよさがあふれでる。名刺を渡すとニッコリ笑って「あの田所さんですよね。お久しぶりです」ときた。えっ、面識あり? いやいや、筆者に宮司さんのお友だちはいない。
「大学を卒業して一度、サンケイスポーツの記者になったんです。ちょうど田所さんは田淵ダイエーの担当で福岡に赴任されてて、ボクはアマチュアスポーツの担当。接点はあまりなく、田所さんが大阪に戻られる前に記者を辞めましたから」
なんと、会社の後輩とは驚きの事実。とはいえ、どうして記者を数年で辞めたのだろう。まずは、なぜ宮司さんがキリスト教系の学校出身なの―から。
「実は父も関学出身、だから自然と…。神職の資格は3年生の夏に国学院大の夏期講習に40日参加して取りました。父から『資格だけは取っておいて』と言われてましたし。神様は違いますが、祈ること、感謝することは同じです」
――すぐには実家を継がなかったの
「子供のころから父の姿を見てたので、心の中ではいずれ継がなあかんのやろなと思っていた。でも、父は『継げ』とは言わなかった。サンスポに就職するときも応援してくれたし、いろんな経験を積むことが大事や―と思っていたようです。もし『継げ!』と強要されていたら、反発していたかもしれませんね」
――それやのに、なんで数年で辞めたの
「入社が内定したときぐらいから、父の体調が悪くなって、検査したらがんと分かったんです。余命5年といわれました」
――ほんまかいな。そらショックや
「もしものときは会社を辞めなきゃいけない。迷惑がかかると思ったので会社には『内定を取り消してください』というたんです。そしたら、当時の局長さんが『そんなん気にせんでええ。余命5年といわれても10年も20年も生きた人がおる。お父さんが頑張ってる間、君も記者として頑張り』といってくれたんです」
平成5年11月13日、父の政稔さんは他界。実家を継ぐため江田さんも記者の道をあきらめた。
「でも、勉強になりました。車椅子バスケットの取材をしたとき、選手や関係者にいわれたんです。身体障害者に優しい施設は全員に優しい施設なんだよ―と」
その言葉通り江田宮司は徐々に神社をバリアフリー化。「今ではお年寄りや障害者の方々から、日本一お参りのしやすい神社といわれています」と胸を張った。
ラジオで発信
なぜ、江田さんが〝おもしろ宮司〟といわれるのか。その理由のひとつが、平成22年6月に親しい浄土真宗のお坊さんと始めたラジオ番組だ。尼崎市のコミュニティーラジオ「FMあまがさき」で毎週火曜日午後8時からの30分番組、題して『8時だよ! 神仏集合』。
《教えて!神さま、仏さまのこと》《今週のありがたい一曲》《宮司と住職のお悩み相談室》となんだか楽しそうな番組。6月6日、1回目が放送され大好評。ところが「神仏集合」というタイトルが、10世紀初期から始まった日本古来の神々と仏教が融合した「神仏習合」と読みが同じで誤解を招く―と指摘を受けた。2回目から『8時だよ! 神さま、仏さま』に変更した。
「変でしょ。8時だよ!とくれば、やっぱり集合でしょう。そうそう、発表記者会見のとき、集まった若い新聞記者さんたちから、どうして8時で集合なんですか?と質問されたんです。あのドリフの伝説の番組を知らんのです。世代の違いに愕然(がくぜん)ですわ」
江田さんたちはその後、キリスト教の牧師さんもまじえて3人で放送。ゲストにイスラム教や天理教の人たちを招いて、約8年間、楽しく続けたという。ほんまに〝おもしろ宮司さん〟である。
アメフト必勝祈願
4月上旬に貴布禰神社を訪ねたときは桜が満開。大きな木もあればまだ2メートルほどの小さな桜も。根元には「甲子園ボウル優勝記念」とある。平成3年から関学アメリカンフットボール部の必勝祈願を同神社で行っている。「平成9年に甲子園ボウルで優勝したのを機に桜の木を植樹していただいたのですが…」。以後も勝つは勝つは、昨年までにリーグ優勝19回、甲子園ボウル17回。なんと現在甲子園ボウル6連覇中。
「令和2年にもう桜を植える場所がなくなり、記念碑を建てることにしたんです。西宮神社さん(西宮市)や広田神社さん(同)はいいですよね」と江田さん。うん、それってまさか、毎年必勝祈願している阪神タイガースのこと?
勇壮なだんじり祭り
今年も8月1、2日に行われる。地車山を互いにぶつけ上に乗り上げた方が勝ち―という勇壮なお祭りだ。「年に2日のお祭り。近所の方々にはご迷惑をおかけしますが、応援してください」と江田さん。(田所龍一)
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