花街の風情残す 国宝・彦根城の城下町に広がるレトロな歓楽街 彦根市・袋町 関西の路地
産経ニュース / 2024年11月12日 10時30分
キャッチフレーズ〝昭和レトロなスナック街〟がぴったりのひなびた歓楽街「袋町(ふくろまち)」(滋賀県彦根市)。国宝彦根城の城下町東南隅に位置する。その名の通り、細い路地が入り組む約3・8ヘクタールの袋小路には、スナックやバー、クラブ、居酒屋など約120店の飲食店が軒を連ねる。タイムスリップしたような繁華街だが、最近、彦根城の世界遺産登録を見据え、インバウンド(訪日外国人観光客)の誘致など新たな動きが出ている。
古き良き城下町
日中、人通りはほとんどなく、おしゃべりする高齢の女性がいるだけで、閑散としていた。
午後7時すぎ、路地の一角のスナック「さくらんぼ」に入り、ママの小池まゆみさんに聞くと、「袋町は遅くからしかお客さんは来ないよ。一番にぎわうのは、日が変わるころではないかな」。基本的には午後9時以降、営業を始める店が増え、ピークは午前0時ごろ。にぎわう路地の写真を撮るのは諦めた。
「今も花街の面影を残すベンガラ格子の木造建造物があり、風情ある街並みを見ることができる」
歴史に詳しい彦根市彦根城世界遺産登録推進室長の小林隆さん(58)が解説してくれた。
彦根市史によると、明治初年、遊女が働く貸座敷(茶屋)が袋町に集められ、遊郭(ゆうかく)が形成された。昭和初期(1929年頃)には69の茶屋があり、花街としてにぎわったが、31(1956)年に売春防止法が公布され、33年には遊廓が解散。茶屋の多くがスナック、居酒屋などへ転業し、滋賀県有数の歓楽街になった。
そして今、袋町は世界遺産登録を目指す彦根城のバッファ・ゾーン(緩衝地帯)に設定されている。バッファ・ゾーンとは、世界遺産の景観を保存するために開発を制限しているエリアを指す。
「袋町は、明治以降の古き良き城下町の雰囲気を楽しむことができる。一つのお勧めスポットです」と小林さんはいう。
訪日客増へ企画
この〝お勧めスポット〟に目を付けたのが観光促進活動をする「一般社団法人近江ツーリズムボード」(彦根市中央町)だった。
「彦根城をはじめとして旧彦根藩領(彦根を中心としたエリア)には観光資源が数多くあるが、日帰り観光の割合が多い。彦根城の世界遺産登録を見据え、宿泊者やインバウンドを増やすために袋町が活用できるとプロジェクトを始動させた」
近江ツーリズムボードの内記真美さんは説明する。
今年3月に始めた事業第1弾は、「彦根はしご酒クーポン」。JR彦根駅構内の彦根市観光案内所などで6千円のクーポンを購入すると2店で各1回、または、1店で2回利用できる。基本、店での会計はない。
現在、スナックとバー10店舗が参加。また、夕食(お食事店6店)とセットになった「彦根はしご酒クーポン付きディナー」(1万1000円)もある。
内記さんは「未知の店では、『予期していない法外な料金請求に遭うのではないか』と心配になる方もいると聞く。インバウンドや初めての人にも安心して楽しんでもらおうと企画した」という。
同クーポンに参加するスナック「さくらんぼ」の小池さんは、「もともと『一見さんお断り』ではないが、新規のお客さんを期待している」という。
同ディナーに参加する和食料理店「粋兆(すいちょう)」店主で、滋賀県社交飲食業生活衛生同業組合理事長の水長秀行さん(51)は「まだ、大きな変化はないが、彦根城は大きなコンテンツ」といい、今後に期待する。
「はしご酒」や日本独自の食文化を解説
「彦根はしご酒クーポン」事業に合わせて近江ツーリズムボードは、インバウンド向けの3本のPR動画を制作した。「はしご酒体験」と「スナックマナー解説」(日本語字幕あり)、「和食マナー解説」(同)で、はしご酒の大まかな流れと、料金体系、店内マナーなど日本独自の食文化を解説している。
近江ツーリズムボードの内記さんは、「ナイトタイムに楽しめるコンテンツが少ないこともあり、観光消費額の伸びが停滞している。初めての方や外国の方でも安心して、気軽に入店できるようにと、地元の専門業者に依頼して作成した」と話す。
3本とも出来栄えはよく、夜の袋町の宣伝にもなっている。
YouTubeの「Visit Omi-近江美食チャンネル」で検索すると視聴できる。(野瀬吉信)
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