忠臣蔵を次代に―大石内蔵助の心情伝えたい 南座の顔見世で片岡仁左衛門が「仙石屋敷」
産経ニュース / 2024年11月30日 12時30分
京の師走の風物詩、南座の顔見世興行が12月1日に幕を開ける。東西の人気俳優が顔をそろえる中、この時期にふさわしい「元禄忠臣蔵・仙石屋敷」で、主人公の大石内蔵助を演じるのが人間国宝の片岡仁左衛門だ。仁左衛門は「内蔵助の心情を伝えることを心がけています。お客さまに『また見たいな』と思っていただけるようにできればいいなと思います」と穏やかな口調で語る。
「元禄忠臣蔵」は、元禄15年12月14日に起きた赤穂浪士の討ち入り事件をもとに、劇作家の真山青果が昭和初期に書き上げた新歌舞伎を代表する壮大な歴史劇だ。「仙石屋敷」はその中の一幕で、内蔵助以下47人が主君、浅野内匠頭の仇である吉良上野介を討ち果たした後の物語。罪人として天下の裁きを待たんとする内蔵助(仁左衛門)が、幕府大目付の仙石伯耆守(ほうきのかみ)(人間国宝の中村梅玉)の屋敷で討ち入りの経緯や理由を毅然と説明する場面だ。
「元禄忠臣蔵」の中では「御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)」や「大石最後の一日」に比べると、「一幕を取り上げるには少し地味なお芝居」(仁左衛門)で上演回数は少ないが、「青果劇」らしい緻密なせりふの積み重ねが内蔵助を当たり役とする仁左衛門の円熟の芸によって光る。
気持ちでせりふを
内蔵助の長いせりふは聞かせどころだが、「せりふをあまり意識すると、耳では分かってもらえても心に響きづらいのではないでしょうか。できるだけ気持ちでせりふを言うようにしています。訴えたいのは内蔵助、そして四十七士の思いですから」
歌舞伎の〝忠臣蔵もの〟といえば義太夫狂言の傑作「仮名手本忠臣蔵」が代表格として知られる。登場人物それぞれに物語を与えて多角的に事件を描く「仮名手本」に対し、「元禄」は史実に忠実に、主人公の内蔵助をどっしりと芯に据えて展開する。
同じ題材でも、古典と新歌舞伎では「演技を変えるのではなくて、自然と変わってしまう」と仁左衛門。「『仮名手本』は義太夫が入ってゆったりと動きでも伝える。『元禄』は言葉で押す部分が多い」と説明する。
愛されてきた忠臣蔵
特に「元禄」では内蔵助の語る言葉に惹かれるという。「(討ち入りまでの)約2年の間に、親や妻子や逃れられぬ絆があって去っていく家臣たちがいる。でも責めるのではなくて、それが人間の本当の姿なんだと内蔵助は言う。そういう捉え方が好きなんですよね」
南座の顔見世では令和4年に忠臣蔵外伝「松浦の太鼓」、5年に「仮名手本忠臣蔵・衹園一力茶屋の場」、今年3月の歌舞伎座では「元禄忠臣蔵・御浜御殿綱豊卿」と、「この3年間、忠臣蔵にこだわってきた」と語る。各作品を通してさまざまな角度から事件を見つめるという趣向だ。
日本人に愛され続けてきた忠臣蔵だが、近年はその史実すら知らない世代が増えている。仁左衛門は現実を見つめた上で、「そういう方たちにも、一幕ものとしてその場面だけでも納得していただけるように演じることが大切なのだと思います」と引き締まった表情で語った。12月22日まで。チケットホン松竹(0570・000・489)。(田中佐和)
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