マジンガーZ、ライディーン、コン・バトラーV 亡き妻に導かれ、巨大ロボット描く ロボット大好き
産経ニュース / 2024年7月1日 10時30分
大人から子供まで楽しめる展覧会『日本の巨大ロボット群像-鉄人28号、ガンダム、ロボットアニメの浪漫-』が6日、京都文化博物館で開幕する。そこで、展覧会を支える〝超マニアック〟な3人をご紹介しよう。1人目は「透視図解」などで有名なメカニックデザイナーの宮武一貴氏(74)。今回は縦約3メートル、横約6メートルの巨大ロボット絵画に挑戦した。「亡くなった妻の言葉に導かれて…」という。そこには不思議な物語があった。
なるほど! 宮武さん
なぜ、あそこまでリアルで精巧な「透視図解」が描けるのだろう。宮武氏は「大学時代、植物学者になろうと顕微鏡図ばかり描いていましたから」と笑う。
東京農工大出身。第1希望は東京教育大(現・筑波大)だった。「1度目は失敗。1浪して受験しようと思っていたら、学生運動が激しくなって入試が中止になったんです。教師になるのはあきらめました」
昭和44年のこと。余談だがテレビでおなじみのジャーナリスト・池上彰氏も東京教育大受験をあきらめ、慶応大に進学した。でも、そのおかげで…。人生の不思議である。
「マジンガーZ」
「勇者ライディーン」
「超電磁ロボ コン・バトラーV」
壁いっぱいに描かれた3体の巨大ロボット。1970年代を代表するロボットたちだ。イラストでもセル画でもない、絵の具を使って描き上げたまさに「絵画」である。描いたのがメカニックデザイナーの宮武氏というから驚き。
「いや、ボクも驚いています。イラストレーターですから、キャンバスに描いたのは生まれて初めて。しかもこんなに巨大なロボット」。この展覧会のため依頼されて描き下ろしたもの。「デッカイ以上のものにしたくてね。お客さまが、絵の前を動いて、歩いて、視点を移動させて感動を呼べる作品にしました」
宮武さんによれば知人の塗装業の上村康司さんが作った、見る角度によって反射が変わる「超偏光塗料」を使用。下書きは黒ペンで描き残したまま。白い絵の具は使わずになんと修正液。まさにイラストレーターが自由に描いた作品だ。でも、どうして宮武氏はこんな絵画に挑戦したのだろう。
「実はね、3年前に火事で死なせてしまった妻の言葉なんです」
夫人の言葉
令和3年5月22日、宮武さんは神奈川県横須賀市の自宅で火事にあった。祖父の時代から続いた100年以上の家はアッという間に燃え落ちた。いったん避難した宮武さんだったが、姿の見えない智子夫人を求め、頭から水をかぶって火の中へ飛び込んだ…。「助けられませんでした。気が付いたらボクも大やけどをおって病院で寝ていました。何日も泣きました」
家屋は全焼。写真も持ち物も智子さんの思い出が残るものはすべて燃えた。少し落ち着いたころ、上村さんが古い肖像画を写した1枚の写真を持ってきた。古代エジプト時代のお金持ちが死ぬ前に埋葬用に描かせる肖像画だという。写真を見た宮武氏は息をのんだ。そこに描かれている女性はまさに智子さんだった。
「妻には4分の1、スラブ系の血が混じっているんです。でも、どう見ても妻そのものでした」。とっさに宮武氏は〝生まれ変わり〟という言葉を思い浮かべ、忘れようとしていたある日のことを思い出した。
数十年前に東京から故郷の横須賀市の実家に夫婦で移り住んだときのこと。2人で海岸線をドライブしていると、智子さんが話し始めた。「この道路のもう少し山側にもう一本、道があるの。その道には鉄道馬車が通っていてね」。まるで見て知っているかのよう。宮武氏はすぐに地元の歴史資料館に問い合わせた。すると明治30年代、横須賀―浦賀間を「石川馬車」という鉄道馬車が走っていた時期がある。だが、それを知っている人は地元でもほとんどいないという。智子夫人は山形県出身で知るはずもない。
「なぜ知っているのか―と問い詰めました。すると、昔、横須賀の美術館の近くに住んで、絵を描いていた。そのころ、ハレー彗星(すいせい)の大接近(明治43年)で世界中が大騒ぎになっていたというんです。私はこの話をするのを止めました。君が昔、誰だったか、知るのも恐ろしいから―と」
そのとき封印した思いが1枚の写真でよみがえったのである。智子さんは横須賀に住みだしてから絵を描くようになった。
「ちょうど火事にあう3カ月ぐらい前、突然、妻が『もう十分に絵を描いたから、もうやめます。でも、あなたはまだ描き終えていないから続けてください』と言ったんです。お別れの言葉だったんでしょうか…。その言葉に導かれて描いた絵です」
宮武さんはまたどこかの時代で智子さんと会えると信じている。そして2人の関係を「縁(えにし)」と呼んでいる。
日本の巨大ロボット群像-鉄人28号、ガンダム、ロボットアニメの浪漫-
日本のアニメーション文化を代表する巨大ロボットのデザインとその映像表現の歴史をたどる特別展。京都文化博物館(京都市中京区)で7月6日~9月1日開催。
会場内ではあの有名な声優2人が「音声ガイド」(700円)で案内してくれる。「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビ役の銀河万丈さんと「NARUTO-ナルト-」の日向ヒナタ役、水樹奈々さん。これは必見、いや必聞だ!(田所龍一)
◇
みやたけ・かずたか 本名・渡辺一貴 神奈川県横須賀市出身。スタジオぬえ所属。県立横須賀高から東京農工大。小泉純一郎元首相は高校の先輩。「マジンガーZ」や「超時空要塞マクロス」「宇宙戦艦ヤマト」など多数のアニメのメカニックデザインに携わった。
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