消えてゆく本屋さん 国も警鐘鳴らす 背景には「薄利多売」な慣習も
産経ニュース / 2024年11月9日 18時49分
「秋の読書推進月間」(24日まで)中とあって、本の魅力を伝えるイベントなどが各地で行われている一方で、全国で書店の減少が止まらない。毎年、数百単位で数が減り、全国の自治体の4分の1以上が書店空白地帯という危機的状況だ。本や雑誌の販売を通じて情報発信を担い、思わぬ本との出合いを提供する書店。その衰退に国も危機感を抱き、経済産業省の書店振興プロジェクトチームは10月、課題をまとめて公表、「我が国の存立基盤や競争力を大きく左右することにもなりかねない」と警鐘を鳴らしている。
日本出版インフラセンターの調査によると、令和5年度の全国の書店数は1万927店で、20年足らずの間に約7700店も減少している。出版文化産業振興財団の調べでは、書店ゼロの自治体は今年8月末時点で全体の27・9%に上り、「市」に限ると15道県の24市が該当する。
同財団によると奈良県宇陀市もその一つ。市内の三好俊輔さん(45)は、毎週のように通っていた大型書店が4年前に閉店した衝撃が大きかったという。趣味の車やアウトドア雑誌、自己啓発本などを〝渉猟〟するように店内を見て回るのが楽しく、書店に行くときは3人の子供にも声をかけていたが、「今はそれができない」と嘆く。
本が必要な時は、車で20分ほどかけて同県桜井市内の書店に出かけるが、「ふらっと書店に立ち寄るということがなくなった」。インターネット書店も利用するが、「ほしい本以外は買わないので、パラパラとページをめくって思いがけない本との出合いがなく味気ない」と語る。
こうした状況を経産省の課題報告書では、特に次世代を担う子供たちが、「書店を知らず、新たな本に遭遇することなく、多様な思考に触れることなく、成長していくことを強く懸念する」としている。
書店減少の背景には複雑な事情が絡み合う。人口減少、インターネット書店の台頭といった社会変化に加え、影響が大きいのは電子書籍の普及だ。雑誌や紙の書籍市場は縮小傾向にあるが、漫画を中心とした電子出版市場は拡大しており、書店で本を買う必要性が薄れている。
また、主力商品だった雑誌の苦境も続く。出版市場がピークを迎えた平成8年、雑誌の売り上げは書籍の1・4倍に上ったが、28年に逆転。ネットに無償の情報があふれたことで雑誌の価値が変化し、休・廃刊も相次いでいる。
本の流通を巡る課題もある。業界独特のルールである委託販売制度だ。書店は出版社との間にある取次会社から本を取り寄せるのが一般的で、売れ残った本を取次会社を通じて出版社に返品でき、在庫リスクを負わない一方、利益率は2割ほどと低い。
どんな本をどれだけ書店に納品するかといった采配は、書店の過去の実績によって取次会社側が行う。人気作家の新刊や話題の本は、多くを売れない町の小さな書店は入手しづらい。書店にとって在庫を抱えることなく、本が入ってきては飛ぶように売れた時代に適合した「薄利多売」の仕組みは、今となっては利益を上げにくい構造となっている。
買ってもらえる書籍を並べる努力が書店にも必要
「委託販売制度」によって、書店への配本を担う取次会社。個人経営の小さな書店にとって取引はハードルが高く、書店の新規参入を阻む要因とも指摘されている。
そんな中、取次会社を介さない書店もある。平成27年開店の「誠光社」(京都市上京区)は、直接出版社から本を仕入れて手数料を抑え、選び抜いた本を売る新しいあり方を提案している。
地図や時刻表、レシピ本、イベント情報誌など生活に必要な実用書が、ネットの普及で商品価値を失った。経営者の堀部篤史さんは「今や書籍は嗜好(しこう)品と化している。高価でも付加価値があって買ってもらえる書籍を並べる努力が書店にも必要」と語る。
書店の棚ごとに、個人や企業が棚主として契約し、それぞれが好きな本を並べて販売する「シェア型書店」という業態も生まれた。書籍販売の新規参入のハードルが低い上、特定の分野に絞った本を並べ、販売することで業界のPRにつなげたい企業も注目の業態だ。
本と読者をつなぐ活動をする合同会社「未来読書研究所」の田口幹人代表は、「大型チェーン店に町の書店、小さな独立系の書店が林立し、全ての本が必要なときに必要な人に届く場所が増え、本が流通することが大切だ」と話した。
構造改革の英断が必要 直木賞作家で書店経営者の今村翔吾さん
メジャーなものからニッチなものまで、多種多様な本が一堂に会する書店が、人々に与える影響力は計り知れない。教育や文化のほか、世界が注目する日本のコンテンツ力の強さにも影響を与えているのは事実だ。
だが、そんな書店の苦戦を見るにつけ、作家として「いい小説を書いて業界を盛り上げます」としか言えないジレンマをずっと感じてきた。そこで読者に本を届ける最前線に立とうと、3年前に閉店が危ぶまれた大阪府箕面市の書店を買い取りリニューアルオープンさせた。昨年は佐賀市のJR佐賀駅構内に書店を復活。今春には東京・神保町にシェア型書店を立ち上げた。
周囲を見渡しても、従来型の書店にシェア型書店、移動式書店、スポーツジムやカフェとコラボした書店など、現在日本の書店文化はかつてないほど多様化している。ここまで多様性に富んだ書店を持つ国は、世界各国を見渡してもなかなかないだろう。「書店を残したい」というコアなファンが多いのも一つ。
逆に言えば、旧態依然とした出版流通構造が変わらないため、書店があの手この手で生き残らざるを得なくなった結果だと思う。業界が健全に回っていくためにも、構造改革の英断が必要だ。(横山由紀子)
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