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国産「ガス冷蔵庫」を知っていますか? 炭酸ガスで鮮度長持ちも安価な電気に敗れて撤退 「昭和100年」だヨ全品集合 大阪ガス編

産経ニュース / 2024年9月10日 11時0分

第3章の商品は「ガス瞬間湯沸器」と「ガス冷蔵庫」。うん? 湯沸器は有名だが冷蔵庫は聞いたことがないなぁ、と思われる方も多いだろう。ガスの強みを使って誕生した2機種だが、その〝運命〟は明暗を分けた。今回は技術開発に携わった松原秀樹さん(80)と亀田恭治さん(64)に『大阪ガススピリット』を語ってもらった。

発想の転換と努力

筆者が8歳になった昭和39年夏、サンタクロースがわが家に「ガス瞬間湯沸器」を持ってきた。もちろんプレゼントではなく、両親が買ってきたのだが、商品のチラシにはアロハシャツを着たサンタが湯沸器を抱えていた。

「当時はまだ湯沸器はぜいたくな商品でしたからね。なかなか売り上げが伸びないところを、営業マンたちの発想の転換と地道な努力のおかげで状況が変わりました」と松原さんは目を細めた。

湯沸器は冬の商品。販売も秋口から始めるのが普通。だがそれでは短い期間に工事の発注が集中し、工事の手が回らなくなることも。当然、苦情も増えた。

営業マンたちは懸命に考えた。ある日、誰かがピンとひらめいた。「冬がアカンのやったら夏に売ればええやん」。ここからは筆者の想像である。きっと営業会議は盛り上がったにちがいない。

「冬の商品を夏に売る? おもろいかも。夏やったら工事のおっちゃんたちも仕事が入って喜ぶしな」

「それやったら、もっとお客さんが喜ぶキャンペーンにしたいな」

「そしたら、お代は12月までいりません―というのはどう? サンタクロースからのお中元ですわ」

てなわけで、お代は12月までなしの「繰り延べ払い制度」。さらに取り付け工事費込みの「分割払い制度」を目玉にキャンペーンに打って出た。主役はもちろん、アロハシャツを着たサンタさんだ。

39年に始まったこの「アロハサンタセール」は爆発的人気を呼び、38年、10万3千台だった販売台数がなんと、キャンペーンが終了する44年には年間で36万9千台も売れ、普及率も17%から67%へ急上昇したのである。

客の快適さを追求

ここで素朴な疑問―「なぜ栓をひねるだけですぐにお湯が出てくるの?」を2人にぶつけた。そこにはすごい技術が隠されていた。

「湯沸器の中でぐるぐると回した水が流れる配管が通っていて、それをガスバーナーで一気に加熱するんです。その火力はコンロの3~4倍。やかんで沸かすより7~8倍の湯沸かし能力がありました」

――私たちは使いたいときにお湯の栓をひねるだけですよ?

「お湯の栓をひねると湯沸器内の配管に水が流れる。それを感知してガスの火が付くように設計してあるんです。それにお湯の栓を絞っても加熱しないよう、水量に応じて火力が強くなったり弱くなったりするようにも。もちろん、栓を止めたらすばやく火も止まります」と松原さん。

「私たちはお客さまが安全に、快適に使っていただくためにはどうしたらいいか。それをずっと考え続けているんです」と亀田さんが締めくくった。

これが《大阪ガススピリット》なのだ。

冷蔵庫は電気に軍配

昭和初期、大阪ガスはスウェーデンの「エレクトロラックス社製」(以後E社)の冷蔵庫を輸入し販売していた。ところが戦後、通商産業省(当時)から「国産品育成」の名目で輸入停止が通告される。

社内で「大至急、オリジナルの冷蔵庫をつくれ!」の指令が飛ぶ。だが、ガス冷蔵庫に関する資料、文献がない。そこで、大阪ガスビルの「ガスビル食堂」の厨房(ちゅうぼう)にあったE社の業務用冷蔵庫を解体。徹底的に構造を分析し家庭用の小型冷蔵庫を開発した。それが昭和31年に発売された「ガス冷蔵器OFA250」である。瞬く間に完売したという。だが…。

40年代になると次々に新機能を搭載した電気冷蔵庫が登場。大量生産で価格も安い電気にガス冷蔵庫は窮地に立たされた。

電気にまねのできないガスのメリットを生かした商品を―。電気になくてガスにあるものは? ガスを燃やしたときに出る排気。いわゆる「炭酸ガス」。

「炭酸ガスは野菜の呼吸を抑えて、鮮度を長持ちさせる効果がある。これを野菜室に導入しました」と松原さん。こうして44年に発売された冷蔵庫が「グリーンメカ」。野菜に差をつける―と銘打った。だが、これが大阪ガスの最後の冷蔵庫となった。

大型化や急速冷却という点ではやはり電気に分があった。悲しい運命…いや、潔い撤退である。

ワンタッチで「カチット」

昭和30年代、ガスは青いゴム管でつながれ、先端部は金属のリングで止められていた。ゴムの劣化などで外れることもあり「お休み前には必ずガスの元栓を閉めましょう」としきりに注意をうながしていた。《ワンタッチでゴム管の接続が可能となる安全な接続器具》が開発者たちの急務だった。

ある日、開発者の一人が偶然、火災現場に遭遇した。駆け付ける消防車。隊員たちが手際よくホースを取り付ける。車体の栓にホースの先端が「カチッ」とはめ込まれた。「これだ!」。そこから研究と開発が始まったという。

「消防の水はホースからポタポタ漏れても大事ないですが、ガスの場合は大惨事になりかねない。プラスチックの耐久性はどうか。接続部にほこりが入ったらどうなるのか。あらゆる可能性をチェックしました」と松原さん。41年に誕生したのが、その名も「カチット」。ワンタッチでカチッとゴム管が接続できる。筆者の家にもあった。(田所龍一)

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