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消滅危機だった蛇行剣 「天皇家とつながりも」と研究者魂で開発業者説得 富雄丸山古墳

産経ニュース / 2024年12月14日 12時35分

東アジア最大の蛇行剣(長さ237センチ)の初公開など、今年最も話題を集めた古墳の一つが奈良市の富雄丸山古墳(4世紀後半)だ。ただ、半世紀前に高度経済成長期に伴う住宅開発で消滅する危機にあったことはあまり知られていない。当時若手研究員だった奈良県立橿原考古学研究所元副所長の泉森皎(こう)さん(83)が、保存の必要性をあの手この手で業者に訴えた。その熱意が、今の「蛇行剣フィーバー」につながった。

今春、同古墳が一気に注目を集めた。

3月中旬に邪馬台国(やまたいこく)の女王、卑弥呼(ひみこ)の鏡ともいわれる三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)などが埋葬時の状態で見つかり、現地説明会には2日間で4500人が訪れた。3月末~4月の同研究所付属博物館(橿原市)での蛇行剣の初公開には8日間で1万7千人以上が詰めかけ、2時間待ちの列ができるほどだった。

ふた開けた缶詰

「あのとき住宅開発で壊されていたら、蛇行剣など存在すら気づかれないままバラバラになっていたかもしれない」

泉森さんは52年前に思いをはせる。

昭和40年代、富雄丸山古墳のある奈良市北部の近鉄・富雄駅周辺は大阪のベッドタウンとして住宅開発が進んでいた。47年、泉森さんは上司から古墳の発掘と合わせて業者と保存に向けて交渉するよう指示された。「雑木林で古墳の形も分からなかったが、何とか残したかった」という。

同古墳から明治時代に盗掘されたとされる京都国立博物館所蔵の石製腕輪などが、「伝富雄丸山古墳出土品」として国重要文化財に指定され、重要な古墳であることは明らかだった。ただし、「伝」との記載が示すように同古墳出土か確定しておらず、墳丘の埋葬施設も盗掘で荒らされていた。

開発業者からは当初、「盗掘を受けた古墳なら、ふたを開けた缶詰みたいなもの。中身は空っぽでしょう」と言われた。泉森さんは「缶詰は、中身を食べても底や縁には食べ残しがある。発掘したら必ず何か出る」と反論し、徹底的に調査を進めた。

泉森さんには研究者としての予感があった。「発掘で京都国立博物館の遺物と接合する破片が見つかれば、『伝』ではなく同古墳出土と証明できる。重文級の副葬品を持つ古墳なら保存が実現できる」

同古墳から石製腕輪の一部とみられる指先ほどの大きさの破片が見つかり、同館の腕輪と照合すると見事に一致した。

神武天皇の敵?

業者はそれでも保存を渋った。泉森さんは関係者から「古墳が天皇家とつながりがあれば事態は変わるかも」と耳打ちされた。

そこで浮かんだのが、古事記の神武天皇東征説話に登場する「トミノナガスネヒコ」だ。神武天皇の大和(奈良)入りに徹底抗戦し、一度は撃退した在地勢力とされる。「トミ」という名は「富雄」に通じ、古墳との関連を指摘する説もあった。

業者に「被葬者は神武天皇に勝利した人物に関わる勢力かもしれない」と説明すると、「天皇家の伝承と関係するなら」と保存に向けて協議が進んだという。

「業者の理解もあって古墳は守られ、一連の発見につながった」と泉森さん。同古墳は昨年、文化庁から「国史跡相当」と評価され重要性はさらに増し、出土した蛇行剣や鏡などは保存処理や分析が進む。「最新のデータをもとに改めて被葬者像を考えたい」。再び研究者魂に火が付いた。(小畑三秋)

富雄丸山古墳

直径109メートルで国内最大の円墳。ヤマト王権の中心地・奈良盆地北部と5世紀に台頭する大阪・河内の中間に位置することから、被葬者は両地域の仲介者か、ヤマト王権と一線を画した勢力ともいわれる。造り出しの木棺の上から蛇行剣や龍をデザインした大型盾形銅鏡(長さ64センチ)、木棺内から漆塗りの竪櫛(たてぐし)や三角縁神獣鏡などが出土した。

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