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「美」に隠れただんじりの正体を解き明かす 森田玲さん編著「だんじり図典」

産経ニュース / 2024年7月27日 8時0分

岸和田のだんじりといえば、街中を荒々しく走る姿が思い浮かぶ。じっくりその姿を見れば彫刻は美しく、だんじりとは何なのかを考えさせられる。民俗学者で篠笛奏者でもある森田玲(もりた・あきら)さん編著『岸和田だんじり図典-祭を支える心と技』(だんじり彫刻研究会)は、だんじりが宿す歴史の奥深さに触れる一冊だ。

岸和田の土生瀧町のだんじりが植山工務店(大工)と賢申堂(彫刻師)によって新調された記録を兼ねて編集した一冊。開けば、平田雅路さんが撮影しただんじりの彫刻に目を奪われる。

氏神である意賀美神社の「雨降ノ瀧縁起」を描いた彫刻では、干魃に際して雨をもたらす神の化身・龍の表情は慈愛に満ち、それを見つめる菅原道真の顔は引き締まっている。戦国の合戦の様子を伝える彫刻は、今にも動き出しそうだ。

「この本は大工さんと彫刻師さん、作る町の人たちをバランスよく紹介したいと思った。だんじりの歴史も美しさも構造も、祭りを支える人たちの気持ちも含めてです。それを伝えたくて副題に『心』を入れました」(森田さん)

その言葉通り、美しさを生み出す技だけを伝える本ではない。無数にあるだんじりの部位や部材の一つ一つに、だんじりを研究し続けた森田さんならではの、深みのある解説が付く。

例えば「コマ」と呼ばれる車輪の軸を通す、筒状の部材はなぜ「ドビ」と呼ぶのか。導水のための土管を関西では「ドビ」と呼んでいた。森田さんは土を焼いて作った管「土樋(どひ)」と形が似ていることから、その名の由来を見いだす。

詳細な解説を加えるのは、部位や部材は、だんじりの歴史を宿していると考えているから。だんじりは屋根や複雑な組み物の形状から、ルーツに神社や寺の建築を想起するが、森田さんは「岸和田のだんじりのモデルは船。部位・部材の名前や形に船の要素がいっぱい残っている」と語る。

細綱を「ドンス」と呼ぶのは、和船の舵につけたそれを指す言葉に由来する。土台の上にある「水板」という部材に波模様の彫刻があるのも、水に浮かぶ船に見立てているからだという。

だんじりは江戸時代、大名らが淀川で京都と大坂を往来する際に使った「川御座船」にルーツがあるとして、本著ではその歴史や、だんじりとの共通点もひも解く。

川御座船は前後に「水主(かこ=こぎ手)」を配置したが、その間には欄干を巡らせた2階建ての「建物」がしつらえられていた。進む方向の指示など前後の水主の連絡役として、建物の屋根上にいたのが「采配役」で、だんじりの屋根の上に立つ大工方に当たる。

なぜ、船から「地車(だんじり)」になったのか。「滑稽寸劇の移動式の舞台として生まれたんです。滑稽寸劇は2人でする。今でいうボケとツッコミみたいなものでしょうか」。だんじりは川御座船のいわばパロディーとして生まれ、次第に豪華さを競うようになった。

だんじりは岸和田以外にもあるが、「岸和田のだんじりは川御座船と同様に屋根が2段になっているのが重要です。ルーツを強調しているのが岸和田の特徴です」と森田さん。見た目や曳く上で無意味に思える部材にも、大阪の文化を形作るさまざまな歴史を宿しているのだ。

森田さんは時代の移ろいとともに、そうした歴史の伝承が途絶えることを危惧している。「だんじりにはこの部材をこう変えればきれい、かっこいいといった視点では済ませてはいけないところがある」とした上で、「だんじりというと荒々しく、物を壊すのがだんじりっぽいとまで思われている。この本を通し、そういうところも見つめ直してほしいですね」と話した。(渡部圭介)

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