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阪神・淡路大震災で「紙の教会」を建設 建築家・坂茂氏寄稿「あの日々を忘れない」

産経ニュース / 2025年1月17日 6時0分

平成7年の阪神大震災は17日で発生から30年。発生直後に被災地に入り、焼失した神戸市長田区の教会の跡地に再生紙でできた紙管で「紙の教会」を建設した建築家、坂茂さん(67)が思いをつづった。

関空から船で港へ

阪神大震災は、私が米国から帰国してちょうど10年目に起こりました。緊急時なので、人命救助などの邪魔にならないよう、発生から2週間ほどして関西国際空港に飛び、そこから船で港へ。さらに三宮まで歩き、バスを乗り継いで現地に入りました。

最初、新聞で在日ベトナム人が聖堂も焼け落ちた長田区の「たかとり教会」に集まっていると知りました。彼らは、日本人被災者より大変な避難生活をしているのではないかと想像し、まず教会を訪れたのです。

そこにはある種の危機感がありました。長田区のケミカルシューズ工場などに勤める彼らは、遠くに建設された仮設住宅からだと工場に通い続けられなくなると、公園などでテント生活をしていました。しかし、近隣の日本人住民は公園がスラム化することを恐れ追い出しにかかったのです。

社会の役に立たず

私はその1年前、ルワンダ虐殺で200万人以上の難民がキャンプで毛布にくるまって暮らしていると知り、ジュネーブの国連難民高等弁務官事務所を訪ね、森林伐採して作ることで環境問題となっていたシェルターを再生紙の紙管で作ると掛け合い、実現させていました。

私が災害支援活動を始めた理由は、われわれ建築家は政治力や財力を持った特権階級の人たちに雇われ、モニュメントを作ることで彼らの力を示す手伝いをしているけれど、実は一般社会にはなんら役に立っていないと気づいたからです。地震で人が亡くなるのではなく、建物が崩れることで亡くなってゆく。それは建築家の責任です。

ところが、街が復興するとき、また建築家に新しい仕事がやってくる。しかし、街の復興の前に被災者は劣悪な環境や避難所、仮設住宅で苦労するのです。そのような住環境改善も建築家の責任だと考えたからです。

仮設の教会を提案

初めて教会を訪れたとき、神父にお会いして「仮設教会を紙で作りましょう」と提案したのですが、最初は相手にしてもらえませんでした。

そこで、まず公園でテント生活をしていたベトナム人のために、ボランティア学生たちと紙管の仮設住宅である紙のログハウスを作ることにしました。仮設住宅は公園に建設するため、停止命令が出ないとも限らず、やめろといわれる前に作り上げなければならない。そこで、まず教会内でプレハブ化して長田区を中心に運び、1日で組み立てました。

この紙のログハウスの成功で神父の信用を得てコミュニティーセンターとしての「紙の教会」を作ることになりました。新幹線が復旧してからは、毎週始発で神戸に通いました。お金もかかりました。そのため、ラジオに出演して寄付を呼び掛けたり、展示場や展覧会などで寄付をお願いしたりもしました。

そうして作り上げた紙の教会は、新聖堂の建築によって役目を終えた平成17年に解体、台湾の地震被災地に移設され、ペーパードーム台湾としていまも使われています。

支援ライフワーク

この活動でわかったことは、コンクリート造でも商業建築は30年くらいで建て替えられますが、たとえ学生が紙管で作ったものでも、愛されればパーマネントなものとなりうるということです。

あれから、被災地を支えるためにわれわれが立ち上げたボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)というボランティア組織もNPO法人化されました。その活動は海外でも知られるようになり、紙管の建物は世界中に広まってゆきました。今や災害に遭って、何をしていいのかわからないという人たちが、世界中からわれわれにコンタクトしてくるようになっています。

神戸での活動が終わったあとは、つらくてもうこうしたことは二度とやりたくない、と思いましたが、建築での支援はいつか、私のライフワークになっていました。

この17日も神戸に行き、教会を訪れます。30年前のあの日々を忘れないために。

坂茂(ばん・しげる)

1957(昭和32)年、東京生まれ。米南カリフォルニア建築大からニューヨークのクーパー・ユニオン建築学部に編入。帰国後の85年、坂茂建築設計を設立。国内外で公共建築や住宅などを手掛ける一方、建築家による災害支援のNGOを立ち上げた。2009年に日本建築学会賞、14年にプリツカー賞、24年に第35回高松宮殿下記念世界文化賞(建築部門)を受賞した。

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