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<朝晴れエッセー>10月月間賞は「読書のたのしみ」 率直な筆致に説得力

産経ニュース / 2024年11月16日 7時0分

朝晴れエッセーの10月月間賞に、毛利美緒子さん(78)=東京都世田谷区=の「読書のたのしみ」が選ばれた。山陰地方の小さな村で育った筆者が、姉や兄と共有した読書の思い出を描いた作品。率直な書きぶりや、効果的でリアリティーのある作家や作品名などが評価された。選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん、岸本佳子・産経新聞大阪本社編集長。

岸本 今回も重なりましたね! 門井先生と私の◎は「読書のたのしみ」。玉岡先生も選ばれています。

門井 読書にまつわるエッセーはこれまでにもありましたが、読書以外の経験談に比重を置いた作品が多い印象でした。これはまさに読書のエッセーであり秀逸です。何といっても羅列してある作家の圧倒的な存在感。こういう本が好きなんだと分かる。自分を良く見せようとせず、ただ経験したことを率直に書いたことで、最後の「さまざまな」という、よくある表現が説得力を持って輝く。

岸本 土蔵の横の長屋というシチュエーションが良いですね。「急に泣きたいような郷愁にかられる」とありますが、作品を読んで、父の部屋の隅で本を読んでいた自分の子供の頃を思い出して…まさにその通りだと知りました。

玉岡 「本部屋」という呼び方がいいですよね。描写から、山陰地方の長い冬の空気まで伝わってくる。長姉が置いていった吉屋信子(よしや・のぶこ)や佐藤紅緑(さとう・こうろく)の本には、時代を感じます。

門井 里帰りした長姉が「黙ってじっと本をめくっていた」。ここ、いいですね。嫁ぎ先で不自由な環境に置かれていることを遠回しに表現していて、でも相手を悪く言わない非常に優しい文章です。

玉岡 私の◎は「味噌(みそ)田楽」。最後の2段落、特に「もう戻って来られないのだな」というところで、私も鼻の奥がツンとなりました。著者は昨年に「追悼」で月間賞をとった方ですが、お孫さんはもう8歳なんですね。味噌田楽とともに、家族への愛を味わえる作品でした。

岸本 言葉をたくさん並べるのではなく、書くべきことを必要最小限で書かれているのがいいですね。「2分間の内緒話」も、親と子のお話でした。

門井 まず、書き出しが素晴らしい。そして最初から最後まで緩みがなく、ラストのどんでん返しも非常にうまい。親と子のお互いの愛情がさっと出てきて、さっと終わるので、押しつけがましくない。一つ一つの文章が優れています。

岸本 私も娘と経験したことが、文章で鮮やかに描かれていて共感しました。今になると、髪を結ぶという母と娘の時間は、何ともぜいたくなものでした。門井先生とは「友達」でも重なっていますね。

門井 書き慣れていないであろう人が、自分の周りを懸命に見つめて素直に書いたもの。エッセーというのは、素直ということ以上の価値はないと思います。文章と書き手の関係を評価しました。

岸本 私は、友達がいなかった人のお話だと分かる冒頭でつかまれました。友達はたくさんいるべしという風潮にある世の中で、「いない」と言うことは、勇気のいることだと思うんです。

門井 確かにそうですね。それには気が付きませんでした。

玉岡 友達とは何か、改めて考えさせられる文章でした。

門井 「中年の思春期」は、更年期が中年の思春期だという。一般的に相いれないものをつなげるために、思春期と更年期についてしっかり考えたからこそ出てくる文章。考えて書いたエッセーとして、いいものだと思いました。

玉岡 私はこの発想に癒やされました(笑)。常にイライラしてしまう筆者の気持ちがよく分かる。今度から使わせてもらおうかな、「ごめん私、中年の思春期やねん」って。表現がマイルド。

岸本 奥さんの実家の米農家を描いた「しおざわ産」は、新潟の南魚沼の四季の表現が「枕草子」みたいでいいなと思いました。一文が短くて、テンポも面白い。

玉岡 「一等米だな」という、最後の義父のせりふもいいですよね。今回はいつも以上に選ぶのが難しくて、泣く泣く選外にした作品を、おふたりが選んでくださっているのがうれしい。

岸本 玉岡先生は「はがきに季節をのせて」を選ばれていますが、作家の方はやはり、はがきやお手紙をよく書かれますか。

門井 他の職種の方と比べたら書くと思います。

玉岡 そうですね。はがきはコンパクトなので、何か用件があるときに限らず、暑中見舞いなど、その人を気にかけて書くことができますね。作品にあるとおり、はがきがあるから続く関係性がある。年賀状もそうですね。郵便料金が値上がりしたところですが、終活で早々に始末してしまうのは、確かにもったいないと感じました。

岸本 今回は改めて考えたり、発見したりする作品も多くありましたね。では月間賞ですが、3人がそろった「読書のたのしみ」でしょうか。

玉岡・門井 そうしましょう。

受賞の毛利さん「いつも誰かが本を読んでいた」

戦後の豊かではない時代でしたが、いつも家族の誰かが本を読んでいました。高校生の姉が借りてきた本を読むために、私は母のお手伝いをサボったりもしました。まだ小学生だったので背伸びをして読んでいましたが、夕飯のとき、姉が「どうだった?」と聞いてくれるのが誇らしくて。

何十年も前に読んだ物語の中の音を、暮らしの中でふと思い出すことがあります。昔読んだ本も、人生経験によって捉え方が変わってくる。自分に本を読む楽しみがあることを、とてもうれしく思います。

私たち6人きょうだいの下の3人も年をとってきて…電話をしたり贈り物をしたりと、交流が増えました。母の命日のある10月に突然思い立って投稿したのですが、まさか月間賞をいただけるなんて。本当にありがとうございます。

阪神大震災「30年に思う」エッセー募集します

平成7(1995)年1月17日に発生した阪神大震災から来年で30年となるのにあたり、エッセーを募集します。

被災された方、被害は少なくても不自由な生活を強いられたり、遠くから被災地を案じたり。震災後に生まれて親世代から話を聞いた若い世代や、自然災害が起きるたび重ね合わせて思いをはせるという人もいらっしゃるでしょう。あのときの記憶や、今だからこそ語りたいこと、分かち合いたい思いを、500字に込めてください。

採用作品は、令和7(2025)年1月の朝刊1面「朝晴れエッセー」にて掲載します。氏名と住所、年齢、電話番号を明記し、〒556-8661 産経新聞 朝晴れエッセー「30年に思う」宛へ。採用の方のみご連絡します。原稿は返却しません。二重投稿不可。

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