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知識ゼロからのアプリ開発で今や利用者100万人 大阪・堺市職員 水道料金支払い便利に

産経ニュース / 2024年12月24日 15時50分

100万人以上が利用しているアプリを作った公務員がいる。堺市上下水道局の郷田秀章さん(51)。スマートフォンで水道料金をいつでも支払える「すいりん」というアプリで、東京都など70以上の自治体で名称を変えて導入されている。水道料金請求書の紙代、印刷代、郵便代など堺市だけで年間2500万円以上の削減効果が出ているという。知識がほぼない状態から1年かけて作り上げ、今年の「地方公務員アワード2024」を受賞した。

東京都では「東京都水道局アプリ」、福岡市では「福岡市水道局アプリ」という名称で導入されているスマホ用のアプリは、令和3年2月リリースされた堺市の水道料金を支払うために開発された「すいりん」をもとに作られている。

郷田さんは堺市上下水道局の事業サービス課で水道料金の支払いなどを担当。事業者から水道料金の履歴が見られるアプリの提案があったことが開発のきっかけだ。「料金履歴だけでは誰も使わない。支払い機能を載せてほしいと依頼した」と振り返る。

東京五輪を控えていた時期で、キャッシュレス化を進めようという動きが広がっていた。スマートフォン決済をはじめとした、さまざまなキャッシュレスへの対応を目指した。

過去に例がないうえにアプリやキャッシュレス決済の知識も乏しい。預かったおカネがどう流れていくのかという収納フロー、スマホごとに画面の大きさが違うなかで正しいQRコードを表示する方法など事業者と調整を繰り返し、約1年かけて完成。職員たちでさまざまな支払い方法をテストして令和3年2月のリリースにこぎつけた。

デジタル化やコロナ禍で非接触が求められていたことも追い風になり、堺市での利用者は急増。今年10月までに契約者の約17%にあたる5万9千人が「すいりん」を利用している。これを機に東京、大阪、福岡、京都など多くの自治体が視察に訪れて導入した。郷田さんは「官公庁は協力したほうがいい。いいものは皆で共有していくべきだ」と多くの自治体にノウハウを提供する。

利用者は365日24時間どこでもスマホで料金支払いができ、コンビニなどに行く必要がない。堺市では2カ月に1度請求書を郵送していたが、印刷費用、紙代、郵便料金が不要になった。経費削減額は5年度で約2500万円。郵便料金が値上がりした6年度はさらに削減額が増える見込みだ。

さらにデータ入力、電話対応、引越した人の請求書などアプリで対応可能となり、事務作業が大幅に削減されたという。「人手不足のなか、これまでと同じやり方ではやっていけない」と郷田さん。

こうした実績から3年度には日本水道協会の「水道イノベーション賞大賞」を受賞。ことしは愛知県豊田市や神戸市の水道局の職員から推薦されて「地方公務員アワード2024」を受賞した。「こんなのまでいただけるとは」と照れ笑いするが、水道行政の専門家の評価は高い。

郷田さんは今年3月以降、毎月能登半島地震の被災地にボランティアに出かけている。地震直後、堺市から給水班として石川県穴水町に派遣されたことをきっかけにボランティアを始めた。「われわれは数日ですが、現地ではずっと何千人もの人が困っている。一度見てしまうと…」と月1、2度は約400キロの距離を車で飛ばして現地に赴く。9月21日の豪雨被害は石川県珠洲市の避難所で体験し、押し寄せる洪水の動画をX(旧ツイッター)で配信してメディア取材も受けた。

さらにマンホールのカードや写真を収集する日本有数の「マンホーラー」でもある。毎年1万人以上が参加するという「マンホールサミット」でレジェンドマンホーラー6人に選ばれ、講演を行っている。こちらも仕事でマンホールカードの作成に携わったところから、のめり込んだ。

水道アプリ、給水活動からボランティア、マンホール。共通するのは上下水道行政を突き詰める行動力。今後について尋ねると「人口減少で水道料金の収益は厳しくなっていくなか、これからもコスト削減にチャレンジしたい」と力強く答えた。(中野謙二)

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