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タイムマシンで行く日曜美術館 全方位ch

産経ニュース / 2024年9月21日 9時30分

昭和46年に「天皇の世紀」というテレビドラマがあった。作家、大佛次郎が幕末の動乱を描いた小説を映像化したものだが、感銘を受けたのは、そのオープニング曲である。時代の波を表現するかのように、大きくゆっくりとうねるオーケストラの調べに、ときおり雅楽が割って入ってくる。これにはしびれた。

作曲したのは武満徹(1930~96年)。日本を代表する現代音楽家である。

先日、その武満が19世紀後期から20世紀初期にかけてフランスで活動した画家で版画家のルドンを語る、昭和55年放送の「日曜美術館」を「おとなのEテレタイムマシン」の枠で見た。

そのころの「日曜美術館」は、例えば作家の池波正太郎がルノワールを語るなど、当時一流の文化人がじっくりと美術についての見識を披露する、まるでラジオのようなインタビュー番組だったようである。

武満によれば、親しかった版画家、駒井哲郎のアトリエで初めて作品を見て、ルドンを知ることになったのだという。ルドンといえば、眼球が描かれた不思議な気球の版画などで知られるが、武満はそのまなざしが見ているものを「最初に見た世界、生命の神秘ではないか」と語る。

実のところ、彼が表現するモノクロームの世界は見る者に不気味さや不安を感じさせる。だが、武満はそこに「日光を吸い込んだ大地のような安心感ややすらぎ」を感じ取ったらしい。

後年、ルドンは黒インクの版画からパステルや絵の具を使った絵画制作に主軸を切り替える。その中の「閉じた眼」という作品に触発され、武満はピアノ曲を書く。その曲がスタジオに流れた後で、彼は自分の曲作りの神髄というべきものを語り始めた。視覚的人間であるルドンが、見えないものを見たいと思いながら絵を描いていたように、音楽家の武満は、いまだ聴こえていない音を聴き出したいと思って音楽を作っているというのである。

自らの体験からルドンを解き明かしてゆく武満は、あまたの美術評論家より、よほどルドンを理解しているように思え、それをじっくり見た自分もまた、難解なルドン作品への理解が大きく進んだように感じた。

というわけで、「タイムマシン」が連れて行ってくれる「日曜美術館」を、ゆめゆめ昔のものと切り捨てなきよう。(正)

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