100年前の大阪に咲いた美術の花をたどる 芦屋市立美術博物館で信濃橋洋画研究所展
産経ニュース / 2024年7月6日 8時0分
兵庫県の芦屋市立美術博物館は、関西の気鋭の洋画家たちによって100年前に大阪市内に誕生した洋画研究所に焦点を当てる「信濃橋洋画研究所-大阪にひとつ美術の花が咲く-」展を開催している。
東京、京都に比べ美術の教育機関が乏しく、後れを取った大阪に信濃橋洋画研究所が生まれたのは大正13(1924)年。前年に二科会員に選ばれた洋画家の小出楢重、黒田重太郎、鍋井克之、国枝金三によって開設された。
世は、大正12年の関東大震災で人口だけでなく工業出荷額も大阪が日本一となる「大大阪時代」へと向かう途上にあった。当時、大阪には東京美術学校のような官立教育機関はなかったが、画家の赤松麟作らが開いた個人の画塾で学ぶ人たちもおり「大阪にも洋画家を志す人は多かった」(同館学芸員の川原百合恵さん)のだという。
二科会員の小出らの下にも、そうした弟子入り希望者が次々とやってきた。自分たちの制作が多忙となった4人は、画家の卵たちの面倒をまとめて見るため、パトロンや大阪財界の力を借りて、私設の洋画教育の場を設ける。
当時、二科会の洋画における影響力は大きく、「近代絵画を学ぶなら信濃橋」という意識は若者にも広がり、入所した研究生からは田村孝之介、長谷川三郎、松井正(しょう)ら、名のある洋画家が生まれた。
4人の講師は1週間ごとに指導を受け持ち、週に1回程度、研究所を訪れては指導。研究生は石膏デッサンで一定レベルに達した者のみ、人体デッサンや水彩画のスケッチに進むことができた。優れた者の中には研究所の展覧会を経て二科会に挑戦する者もいた。しかし、結局は戦争で研究生が減り、絵の具も手に入らなくなって昭和19年に閉鎖されてしまう。
芦屋は講師の一人、小出が晩年を過ごし、研究生も集まったことから関連の収蔵作品も多く、100周年を機に同館で振り返ることとなった。
「学びの過程を見てもらうため、作品は一人2点以上を出しています。信濃橋洋画研究所だけに焦点を当てた展覧会はこれまでになく、意味のあるものだと思います」と川原さん。近年、新たに発見された小出の「仏蘭西(ふらんす)人形」なども展示されていて、味わい深い展覧会となっている。
8月25日まで(7月15日、8月12日を除く月曜と7月16日、8月13日休館)。一般800円ほか。問い合わせ0797-38-5432。(正木利和)
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