<朝晴れエッセー>12月の月間賞は「日記帳」 応援したくなる前向きな姿勢と素直さ
産経ニュース / 2025年1月18日 7時0分
朝晴れエッセーの12月月間賞に、髙木徳(めぐむ)さん(95)=大阪府高槻市=の「日記帳」が選ばれた。5年日記を50年ほど続けている筆者が、新しい日記帳を買うかどうか悩む話。5年後には100歳になるという年齢の重みや、肩ひじを張らない前向きな姿勢を描く素直な書きぶりが評価された。選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん、岸本佳子・産経新聞大阪本社編集長。
玉岡 今回も評価がばらけましたね。岸本さんが◎にされた「日記帳」は私も選んでいます。
岸本 新しい5年日記帳の最終年には100歳になるという、圧倒的な年月のすごみに感服いたしました。95歳の筆者にしか書けない作品です。最後まで書き切れるのかと日記帳を買うか迷った末に、「悩んでもどうしようもない、開き直りです」と購入する前向きなお人柄にも引かれました。
玉岡 エンディングを意識する年代になると「今から犬を飼ったら、犬の方が長く生きてしまう」といったことは考えますが、日記もその対象かと。でも筆者は消極的にならない。「結論は5年後です」や、「今度は若い感じのブルーにしました」という文章が効いていて、読み手は最後まで書き続けてほしいと、マラソンランナーを応援するような気持ちになります。
岸本 私は作品に触発されて、何十年ぶりかに日記帳を買ってしまいました。門井先生の◎は「遠距離な娘」。
門井 書き出しが素晴らしい。ここから話を展開させるのは難しいです。そして、久しぶりに会った娘と孫との出来事を書いた後の、「何も知らなかった1年間を、スマホのラインの送信歴や、画像でなぞっている」というラスト。娘の闘病について、何か気づけることはなかったのかと振り返っているのでしょうが、そこまでは書かない。この淡い書き方は、とてもいいものだと思いました。
岸本 確かに珍しい書き出しですし、終わり方も秀逸ですね。玉岡先生の◎は「誤算だけど」。卵卸業を廃業した筆者が、空いた倉庫で古本屋を始める。
玉岡 タイトルにある「誤算」が上手に書かれています。学校帰りの子供や、カフェのお客さんが「寄ってくれるかと思いきや来ない」。ありゃりゃと思わせて「でもいいんです」という、ほっこりした開き直り。物語の運び方がうまいです。欲を言えば、ラストの一文はなくてもいい。もう十分に伝わっています。
岸本 エッセーを手に、お店を訪ねるお客さんがいるといいですね。
玉岡 岸本さんとは「マニキュアを母に」でも重なっていますね。タイトルから大体の情景は思い浮かんでいましたが、マニキュアを塗ったのは娘ではなく、息子だったのかと驚きました。
岸本 私もです。
門井 そうですか? 僕も同じ状況ならやると思います。
岸本 驚きもありましたが、息子が昔の話をしながら、母親の爪にマニキュアを塗る温かみがふかふかと伝わってきました。ただ最後の一句は、ない方がよかったかなと。
玉岡 そう、そこが惜しい。この作品に関してはいいのかなとも思いましたが、やはりエッセーの中に俳句や短歌は入れない方がいいです。
門井 話が先に進まず、蛇足になってしまいますからね。「2人のWRX」は、勇気のいる書き方だと思いました。
岸本 購入した中古車を能登の販売店に取りに行くお話でしたね。筆者は大阪の方。
門井 作品の舞台が能登でありながら、被災地としての話はほとんどない。「地震後に離れていったお客さんを-」という店長のせりふと、屋根のブルーシートくらい。これは被災地の話ではなく親子3代の車の話だと、自分の方に引き付けて押し切るのは想像以上に難しい。感銘を受けました。最後を情景で締めたのもいい。
岸本 なるほど。お二人は「想像の先に」で重なっていますね。
門井 子供の頃、家の間取り図を見るのが好きだったということを書いていますが、伝えたいのは最後にある夫と、夫が設計した家のこと。言ってしまえば自慢話を、コメディーとしてなかなかよく書けています。
玉岡 すてきなハッピーエンド。幸せです!とまで書くと暑苦しくなるところ、自制して適度に表現されていますね。
岸本 私は「犬と息子」が愉快で好きです。息子が子供の頃にかわいがっていた野良犬の名前が「どん兵衛」で、最近飼いだした犬は「ジュン」。老後の筆者にあてがうと言っていた息子の家の和室が、その犬の部屋になる。昭和と令和のペットの価値観の変わり方が面白くて。
玉岡 犬の扱いって、本当に変わりましたよね。人と犬の歴史がうかがえる作品です。
岸本 そろそろ月間賞を決めなければいけません。◎と○がそろったのは「日記帳」だけですが、門井先生、いかがでしょう。
門井 いいと思います。筆者は95歳ですが、非常にいい意味で子供のように素直に、この素材にとって一番いい順番で書いている。エッセーで一番大事なのは素直さです。最初から最後まで真っすぐ話を進め、身に起こったこと、心の中に起こったことをその通りに書く。この基本に忠実という点で、評価できると思います。
玉岡 では、月間賞は「日記帳」ですね。
受賞の髙木さん「買ってしまえばすっきり」
もともとはサラリーマンとしての日々の仕事の記録をつけていたのが、次第に日記になりました。書き始めたのは1970年の大阪万博よりも前です。
昔は3年日記にしていましたが、年を取ると書くことが少なくなってきて、書き込むスペースの小さい5年日記に変えました。
新しい日記帳を買うときに、これほど年齢を意識したのは初めてです。エッセーに書いたとおりに悩みました。
やっぱり人間は欲や見えが強いようで、1年ごとの日記ではなく、今までどおり5年日記を続けたい。意気を込めて表紙がブルーの日記に。買うのにも気合がいりましたが、買ってしまえばすっきりしたもので、肩の力も抜けています。
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