ゴミが散乱、路上生活者の街から高級ホテルもある観光拠点に 変わりゆく西成・あいりん
産経ニュース / 2024年12月30日 20時10分
「日雇い労働者の街」として知られる西成・あいりん地区。地区のイメージアップを目指す平成25年の「西成特区構想」以降、街にあふれていた不法投棄は減り、安全対策も進む。さらに近年、付近には高級ホテルが進出し観光の拠点としての側面も加わった。12月1日には日雇い労働者支援の複合施設「あいりん総合センター」の敷地内で生活していた路上生活者を退去させる強制執行も実施された。あいりん地区はどう変わったのか、年の瀬の街を歩いた。
12月26日午後2時ごろ、地区内の憩いの場である萩之茶屋南公園(通称・三角公園)に向かった。周辺の路上では、缶ビールを片手に約10人の男性がドラム缶にたいた火を囲み暖を取っていた。
公園内のベンチに腰掛け、たばこを吸っていた男性(80)に話を聞くと、かつての公園内は、路上生活者がブルーシートをはって暮らしたり労働先の建築現場で出た不要な木材が不法投棄されていたり「ぐちゃぐちゃやった」という。だが、特区構想以降こうした光景は一掃され、「一気に街はきれいになった」と話す。
確かに歩いていても、ゴミの散乱や、路上生活者が暮らす面影はあまりなかった。むしろ、清掃の仕事をあっせんされた日雇い労働者らが、たばこの吸い殻などをトングで拾う姿が各所で目に留まり、街の美化への強い意識を感じた。
1日に路上生活者の立ち退きが強制執行されたあいりん総合センター周辺では、不法投棄されていた家具や電化製品の山も撤去された。現在では高さ約3メートルの白いフェンスがセンター周囲を囲い、かつての雑多な面影はもうない。
令和4年には高級旅館などを手がける「星野リゾート」がJR新今宮駅周辺にホテルを開業するなど、若者や外国人の姿も多くみられる。あいりん総合センターの近くにも複数のホテルが立ち並び、スーツケースを引き一人で歩く若い女性や外国人観光客が行き交っていた。
だが、住人からは高齢化を嘆く声も。あいりん地区で30年以上暮らしているという70代男性は「日雇いの仕事が減り、西成に来る人が減った。最近は年寄りが増えるばかりで活気がなくなってきている」と話す。令和2年の国勢調査では、西成区の65歳以上の人口は大阪市内で最多の39・2%。街には「介護サービス」の看板を出した訪問介護の事務所が立ち並び、手押し車で歩く高齢者と何度もすれ違った。
かつて労働者の街として活気にあふれていた街、西成。街の美化が進み、観光客の姿も増える一方、高齢者の増加とともに「福祉の街」の側面も増している、そう感じた。(木下倫太朗)
「困窮した20代や50代増加」
NPO法人釜ヶ崎支援機構・山田実理事長(73)
昭和45年の大阪万博開催を機に、都市のインフラ整備や建設関係の仕事が増え、全国から日雇い労働者が集まった。その後も活気は続き、1980年代には約3万人もの労働者があいりん地区に出入りしていた。あいりん総合センター周辺の路上では、送迎のバスが早朝から埋め尽くし、「不夜城」とも呼ばれた。
日雇い労働者が犠牲になった交通死亡事故が引き金となった昭和36年の第1次暴動以降、労働条件を巡る手配師への不満などから数年おきに暴動が発生する状況が50年ごろまで続いたが、平成20年を最後に起こっていない。労働環境の改善や、大阪府警が労働者と対立するのではなく、共存する方針に転換したことが影響しているのだろう。
「労働力のプール基地」としての役割を担ってきたあいりん地区だが、仕事の減少とともに労働者の数も減りつつある。「ドヤ」と呼ばれる労働者向けの簡易宿泊所は、2000年代ごろには、訪日外国人客向けのホテルへの転用が見られた。さらに、労働者の高齢化も進んでおり、高齢者や生活保護受給者向けのアパートに変わるなど「福祉の街」の顔も見られる。
一方で、新型コロナウイルス禍などの影響を受け生活に困窮した20代の若年層や50代が増加している。こうした人たちのセーフティーネットとなり「安心して働き、生活できる街」であり続けられるよう、行政も巻き込んだ課題解決が求められている。
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