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和食のだし取りは難しい? 実は簡単 便利 減塩にも おいしく食べて次世代につなぐ 昆布の未来は 再生へ向けて

産経ニュース / 2024年9月3日 10時30分

〝だし離れ〟といわれる昨今。理由の一つとして、昆布やカツオなどの自然食材から取るだしは手間がかかる…といわれるが、本当にそうなのか。和食のだしの魅力を漫画で描いている佐野妙さんは「時間や分量はあまり気にしなくていい。昆布を入れるだけでおいしい」という。昆布を味わう機会が増えれば、食文化の継承にもつながりそうだ。

漫画で伝える

佐野さんは愛知県豊橋市在住の四コマ漫画家。今春出版された「ホントは出汁(だし)たい山車(やまぐるま)さん」(双葉社)は、全12話の雑誌連載を一冊にまとめたものだ。だし好きな女性とだしの魅力を知らない男性が主人公で、和食だしの手軽さやおいしさ、便利な使い方を教えたり学んだりして話が展開する。

和食の神髄ともいえるだし。現代人にはとっつきにくいイメージも強いが「昆布へのハードルを下げたくて情報を最小限に抑えた」と佐野さんがいう通り、簡潔にまとめられている。

例えば「昆布を半日、水に漬けただけの『昆布水』を5分ほど煮出せば昆布だしが取れる」「昆布だけよりカツオ節を加えるとうま味が何倍にもなる」。また「とろろ昆布をつくねハンバーグに入れるとつなぎにも、うま味にもなる」といった具合だ。簡単で効果的なアイデアの数々には目からウロコ。「子供や学生にも読んでもらいたい。記憶の片隅に留めておいて、いつか思い出してくれたらうれしい」と期待を込める。

マンガには盛り込めなかったが、伝えたい情報の一つが、災害袋に昆布を忍ばせておくこと。「賞味期限もないし、避難所で配られたカップ麺に昆布のかけらを入れるだけでホッとする味になる」

だしにやみつきになり「だしソムリエ」の資格も取得した佐野さん。自然のだしを使うようになって家から調味料が減り、だしがらまで食べ尽くすため「エコになった」と笑う。

中学生の息子にも味覚の変化が見られ「むやみにジャンクフードやお菓子を欲しがらなくなった」とも。佐野さんは「だしもそうだけど失敗を怖がり過ぎ。家庭で出す料理は完璧でなくてもいいのでは」と提案する。

手軽なレシピ

同マンガにはいくつかのレシピも紹介されている。監修したのは横浜市の料理研究家、村越仁美さん(54)。昆布の食文化を次世代へつなぐために活動する日本昆布協会認定の「昆布大使」でもある。

企業や雑誌の依頼を受けたレシピ開発といった本業の一方で、市民向けの食育活動にも関わり、佐野さん同様に昆布の手軽さやおいしさを発信してきた。

村越さんによると、昆布には食物繊維やカルシウムなどのほか、代謝を活発にするヨウ素が含まれているのが特徴で「食べ過ぎると甲状腺の機能が低下するが必要な成分。昆布は人間にとって大切な海藻」と語る。

そんな村越さんが考案した昆布水を使ったオリジナルレシピ「梅かつおとろろ昆布うどん」を作ってみた。体にしみるやさしくて懐かしい味。汁も全部飲み干せば栄養補給にもなり、疲れたときや夜食にもよさそうだ。

味の豊かさは人生の豊かさ

総務省の家計調査によると、1世帯あたりの昆布の消費量はここ20年で半分ほどに落ち込む。家庭で進んでいるとみられる、だし離れ、和食離れ。立命館大の安井大輔教授(社会学・食研究)は「『わが家の味』が受け継がれなくなった結果、本格的な味を追求しがちになり、社会状況とマッチせず和食離れにつながった」と指摘する。

安井さんによると、かつては家庭や地域の共同体で料理、味が継承されることも多く、身近な人から学ぶことでいい意味での「適当」も身につけられた。ただ、核家族化、地域共同体の希薄化などで個人に委ねられるようになると「ちゃんとしたものをつくらないといけない」と、レベルを上げる傾向があるという。

和食の基本、一汁三菜は調理や片付けにも時間がかかり、レベルを追求すればさらに時間がかかる。共働き世帯などが増えているなか「時間短縮が目的であれば、だしの代用品を使おうと考えるのは自然なこと」。時間をかけて作る楽しみもある和食文化を当てはめるのは難しい。「家事の男女分担、会社での残業削減など社会構造の変化も求められる。食の問題は、食だけでは解決できない」と安井さんは強調する。

和食やだしの文化は家庭で薄れたとしても、プロの料理人の世界でしっかり伝わっていくのでは-。そんな気もするが、安井さんは言う。「料亭だけでの文化の継承は厳しい。裾野が広くないと高い山はできない。中間(家庭)が広く薄くあってこそ、頂点(料亭)の和食も成り立つ」。

一般的に若者は、油や塩分が強い刺激的な味を好むとされる。安井さんも学生時代はそうだったというが、記憶に残る味はうどん店のだしの効いたカレーだった。「だしの良さは、あとあと効いてくるパンチのようなもの」とだしの奥深さを話す。

若い頃にうま味や苦み、渋み、酸味など多彩な味を経験しておかないと味覚は狭まる-。海外ではそうした食育研究もあるという。「味のバラエティーは人生を豊かにする。だしはさまざまな料理に使われて素材のおいしさを引き出すが、舌が育つ時期に、だしの味を経験していないのはもったいない」と語る。(北村博子)

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