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<朝晴れエッセー>5月月間賞は「メジャーリーガーと戦った父」 日台の歴史物語を評価

産経ニュース / 2024年6月15日 8時0分

朝晴れエッセーの5月月間賞に、松尾裕之さん(87)=大阪府池田市=の「メジャーリーガーと戦った父」が選ばれた。戦前の1921年に台湾を訪れた「米国職業野球団」と現地の学校の野球部が試合をした際、17歳の父親がマウンドに立っていたことをつづった作品。祖父が撮っていた写真から展開する、日台の歴史物語が評価された。選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん(リモートで参加)、岸本佳子・産経新聞大阪本社夕刊編集長。

岸本 今回は重なった作品が多いですね。3人とも選んだのは、門井先生が◎の「メジャーリーガーと戦った父」。

門井 大きな歴史と一生懸命ぶつかって、書ききったという感じです。父親の話で展開し、筆者が7歳のときに亡くなったと自分の話を交えていく。最後にある、今の台湾総統の頼清徳氏と会ったというエピソードも自慢話になっていない。歴史ものの作品として秀逸だと思います。

玉岡 台湾が日本だった時代のお話。大きな歴史が切り取られていますね。それでいて、庶民が書いた一時代と言いましょうか。先日、私が台湾で一緒に仕事をした方々からも、「あの時代は日本だったんだ」という、親日家という表現では収まらない思いを感じました。

岸本 珍しいタイプの歴史ものですね。ニュースとして新聞に載ってもおかしくないようなお話です。私の◎は「あなたにエールを」。門井先生も選ばれていますね。

門井 筆者にドラマチックなことが起きたわけではない、なんてことのないエピソードを描いた、淡彩なスケッチのような文章がいいですね。日常を日常として素直に書くのは、エッセーの原点。朝晴れエッセーを書いてみようかどうか迷っている方にとり、参考になる作品だと思います。

岸本 5月の連休の出来事とありますが、まさに5月の風のような爽やかなイメージを抱きました。

門井 確かに。例えばこれが10月であれば印象が全く変わりますね。

岸本 たまたま出会った見知らぬ女性と車中でお話しするというのは、いかにも関西らしい。

玉岡 隣は何する人ぞという現代に、袖振り合う人とひととき語り合うというのは、いいですね。私の◎は「ゴジラと同い年」。5月の「頑張るじいじとばあば」のジャンルの中で、頭一つ抜けていたと思います。ゴジラという、世代を問わず誰もが知る存在をシンボリックに、人生に引っ掛けて書かれています。

岸本 門井先生と私は、「賢い入院生活」と「ある手紙」でも重なっていますね。どちらもお子さんを亡くされた方のお話でした。

門井 「賢い入院生活」は、タイトルがいいですね。読み終えると、賢いという言葉に非常に複雑な味がある。息子さんが病室で快適に過ごすために、自分の意思で一つ一つ、ものを手に入れていく過程と、病で一つ一つ失っていく過程が描かれているのが眼目。両方書いてあることで、読者の心に迫ります。息子さんが亡くなってすぐにエッセーに書き残された、筆者の強い意志にも敬意を表したい。

岸本 一つずつ失って、最後まで残っているのが「ありがとう」だった。ラストも「息子は旅立った」とすっと終わられていて、全体的に情緒的な文章ではないのが、かえって胸に迫ります。「ある手紙」は、29年前に亡くなった娘さんの理学部での修士論文を、大学院の先生が見つけ出して筆者に内容を伝えてくれたという作品です。

門井 こちらも深刻なお話です。題材も理系のお話ですが、文章自体も理系的で、情緒より、てきぱきと状況を説明するのにたけている。主客一体と言いましょうか、題材とよく釣り合っています。悲しみを描いたエッセーとしては、独特の光を放っていると思います。

岸本 論文は大学院でひそやかに生きていた。娘さんは亡くなってしまったけれど、ずっとそこにいたのだと、深い思いを抱きました。「ドアが、外れた」は、一転して笑える作品でしたね。

玉岡 外れたドアを受け止めて固まっているシュールな状況が目に浮かびます。実際には笑える状況ではないんですが、笑ってしまいました。本当にうまい書き手で、「自由と不自由が背中合わせのお一人様生活」というのは、何かのキャッチコピーになりそうなくらい。軽さがとても良くて、オチもうまいです。

岸本 作品の内容とともに、この先も一人で軽快にしっかり生きていくという、この方の格好良さに一票です。5月も「頑張るじいじとばあば」の作品が多かったですが、私が一番驚いたのは90歳の方の「ジジババの昼飲み」でした。

玉岡 シルバーカーを押して歩いて、仲間とお酒を飲む。「朝は晴れるとは限らない」の筆者のように体を動かせるといいなと思いますが、それが無理だとしても、こうしてお酒を飲むことなら私にもできそうな気がします。

岸本 それでは月間賞ですが、3人がそろった「メジャーリーガーと戦った父」でしょうか。

門井 賛成です。

玉岡 頼清徳氏が登場するのも、タイムリーで良かったですね。

受賞の松尾さん「写真から台湾で交流」

アルバムの写真が父とメジャーリーガーとの試合だと分かったときは、驚きました。子供の頃にも見たはずですし、父も話してくれたと思うのですが、7歳のときに亡くなったので記憶にありませんでした。

台南一中を訪ねたとき、たまたま集まっていた同窓生の中に英語を話せる人がいて、事情を説明すると歓迎してくれました。観光客ではなく、台南を故郷とする父の息子として扱ってくれるんですね。試合をした校庭も案内してくれました。

父の写真から、同窓生を通じてどんどん交流が広がったことは驚きで、とてもうれしい。朝晴れエッセーに掲載されたことを、台南でできた友人も喜んでくれました。月間賞をいただいて、父に聞かせる冥土の土産がまた増えました。

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