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求道祈念、切ないほどの信仰心 堺の十輪院板碑 石仏は語る

産経ニュース / 2024年7月13日 15時0分

十輪院の境内すぐ左手脇に建立されており、大きさとしては背の高い板碑になります。花崗岩(かこうがん)製で、高さ約200センチ、上部幅は約30センチ、下部幅約35センチ、厚さ約20センチを測ります。細長い舟形の頂部山形は尖(とが)ってみえます。横帯は一条の切り込みですが、頂部からの出っ張りと幅のある額部構成となる珍しい上部の先端意匠が特徴です。

碑面をもつ板石という単純な造塔身部の空間には枠がなく、中央部に舟形光背を彫り凹(へこ)めており、その中に半肉彫りの地蔵菩薩立像を彫り出しています。蓮華(れんげ)座は碑面より突出させて、地蔵菩薩は通常のように右手に錫杖(しゃくじょう)、左手に宝珠を手にしています。

さらにその下部には、阿弥陀如来の種子「キリーク」が彫られていますが、浅い薬研彫りの梵字は大胆ではあるものの、稚拙です。

そしてその下部には大きく二行にわたって、「為阿弥陀佛右/明徳二(1391)年七月」と銘文が刻まれていますが、銘文は中途半端な状態で截断されたようであり、さらに根部下には祈願者や内容銘文があったのではないかと推測されます。台石上に建つ板碑根部の状況は不明ですが、本来はより背の高い板碑であった可能性があります。

紀年銘から南北朝時代末期の年号を読むことができます。この時期は末法思想から衆生を救うための仏教が模索されましたが、仏教界の情勢不安定など、主体的な仏道が失われていました。それでも人々は地蔵菩薩による地獄からの救済、六道にある衆生は必ず救われると期待し、末法思想にあっても地蔵信仰にすがったのです。

そして欣求(ごんぐ)浄土を示しているとみられる阿弥陀如来による極楽からの来迎、往生願では念仏する者は必ず往生することが約されたため、そのような求道を祈念し、板碑を利用して浄土信仰を表現した石造品には、切ないほどの信仰心が感じられる貴重な史料です。

(地域歴史民俗考古研究所所長 辻尾榮市)

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