試合開催の度に各クラブが赤字に、WEリーグ改革のとき 北川信行の女子サッカー通信
産経ニュース / 2024年6月28日 11時0分
2021年にスタートし、3季目を終えたサッカー女子プロ、WEリーグが曲がり角を迎えている。26日に開かれた理事会後のオンライン記者会見では、3季目を「全体的な競技力向上、より拮抗したリーグを目指すとともに、興行規模の拡大を図る各種施策を実施した」などと総括。アジア女子チャンピオンズリーグ(AWCL)もスタートする4季目に向けては、課題となっていた冠スポンサーが見つかったことが明らかにされるとともに、競技力向上施策の本格化や、戦略的な営業活動などに取り組む方針が示された。だが、加盟クラブからは選手の海外流出や公式戦の続行不能を危ぶむ声が噴出している。今は危機意識を共有し、足元を見つめ直すタイミングではないか。将来にわたって持続可能なリーグとなるための抜本的な改革が求められているように思う。
1試合100万円超の赤字
リーグ側が強調するように、WEリーグ発足によって日本の女子サッカーの競技レベルが向上したのは間違いない。女子サッカー人気が急速に高まっている欧米との比較でも、プレー強度の高さや、選手のボール扱いのうまさはWEリーグが誇る特長となっている。
一方で、選手の待遇や練習環境などはWEリーグでも徐々に改善されてきてはいるが、欧米の人気クラブとの差は拡大しているように見える。こうした要因もあって、WEリーグ所属選手の海外移籍が一気に加速。女子日本代表「なでしこジャパン」も海外でプレーする選手が大半を占めるようになり、WEリーグで結果を残した選手だけでなく、将来の代表入りを目指す若手も相次いで海を渡るようになった。
男子のJリーグも同じような傾向にあるが、違いは1993年の発足から30年の歴史を持つJリーグは各クラブのアカデミー(育成組織)をはじめ、しっかりとした基盤が整備されているのに対し、創設わずか3年のWEリーグは基盤(財政、組織など)がぜい弱なこと。若手の相次ぐ海外移籍はタレントの国外流出とほぼ同義で、WEリーグの空洞化、価値低下につながりかねない。
さらには、2021~22年シーズン=1560人▽22~23年シーズン=1401人▽23~24年シーズン=1723人-の1試合平均の観客動員数の変化が示すように、リーグの人気向上のスピードはかなり遅い。リーグ側も「4クラブが平均2千人以上を集めた一方、1千人未満のクラブもあり、クラブ間の差が広がった」との認識を示しているが、ほとんどのクラブが青息吐息となりながら、なんとか試合を開催しているのが現状だ。
あまり報じられていないが、WEリーグは6月に入って相次いで臨時の実行委員会を開催。関係者によると、経営の苦しさを訴えるクラブが相次いだという。
たとえば、ホーム試合の開催経費。スタジアムを借りる賃料や警備員を雇う費用などが入場料収入やグッズ収入を大きく上回り、試合を開催すればするほど赤字が膨らむクラブがほとんどになっている。アウェー試合も遠征費がかかるために赤字。ホーム、アウェーともリーグ平均で、1試合100万円以上の赤字を計上しているとされる。
身の丈に合った経営で持続可能に
こうした状況とは別に、リーグは高田春奈チェアが理事長を務めるアマチュアのなでしこリーグと一体となった構造改革を模索。以前にも少し記したが、作業部会を組織し、昇降格システムの導入やWEリーグのプレミア化などが議論されているもようだ。
しかし、最も大切なのはWEリーグを存続させること。そのために必要なのは、加盟クラブの保護ではないか。早めに手を打たないと、リーグから脱退したり、消滅したりするクラブが現れかねない。
加盟クラブを保護する具体的な施策として考えられるのは、直接的なものとしては、リーグから各クラブへの配分金の増額が挙げられる。カップ戦にかかる経費などを見直せば、可能なように思う。
それ以外にも「リーグ戦のホームゲームの80%以上をホームスタジアムで実施しなければならない」とのスタジアム条件を緩和して賃料の安い、黒字化を計算できるスタジアムで試合を開催できるようにしたり、「プロ選手を15人以上保有し、うち5人以上はプロA契約選手であること」とのプロ契約選手数の取り決めを撤廃して選手人件費を抑制できるようにしたりすることも、経営難のクラブを助けることにつながる。
また、人気の向上、知名度のアップには、放送、配信方法を見直し、ライト層が試合を観戦しやすい環境を整える必要もあるのではないか。さらには、リーグを持続可能にするためには、未来のWEリーガーを生み出す普及や育成にも力を入れなければならない。
「なでしこジャパン」は今夏、パリ五輪に挑む。好結果を残し、それがWEリーグにも好影響を及ぼす形になれば、それにこしたことはないだろう。しかし、逆の可能性もある。
そうなったときの責任を、ピッチで奮闘する選手に負わせるべきではない。選手が輝くリーグにするため、運営側がしっかりと現実を見据え、改善すべきことを改善しなければならないのではないか。
女子サッカー人気が高まっている欧米だが、よくよく観察すると、すべてのクラブがきらびやかな世界で、この世の春を謳歌しているわけではない。トップリーグでも、観客席がほとんどない小規模の会場で公式戦を戦っている地方のクラブもある。
日本のWEリーグも、加盟各クラブも、まずは身の丈に合った経営を行い、将来に向かって夢のある環境を地道に築いていくことが求められている。
(サンケイスポーツ編集委員)
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