トランプ次期政権は対中国シフトを模索 欧州、中東、アジア…「3つの圏域」分散を回避 「トランプ2.0」の衝撃②
産経ニュース / 2024年11月8日 19時0分
米国のトランプ次期政権をにらんだ外交的な駆け引きが早くも活発化している。ウクライナのゼレンスキー大統領は6日にトランプ次期大統領と電話会談し、ロシアのプーチン大統領もウクライナ侵略戦争の停戦協議に関心を示した。欧州、中東、アジアという「3つの圏域」で危機が同時進行する状況に歯止めをかけるため、トランプ氏がウクライナに関して早期の停戦を促すとの見方が強まっているためだ。
「安全の保証」求めるウクライナ
ゼレンスキー氏は7日の記者会見で「ウクライナの安全を保証せずに停戦を急ぐのは危険だ」と強調した。停戦すれば、時間を得たプーチン氏が軍備を立て直し、必ず再侵攻してくるとの懸念がウクライナではきわめて強い。逆にプーチン氏は、自らに有利な形でトランプ氏と取引できることを期待している。
世界では今、中国、ロシア、北朝鮮、イランといった権威主義勢力が、米国の主導する国際秩序に挑み、利益や野心を追求している。欧州、中東、アジアという「3つの圏域」で紛争や危機が拡大・連鎖する未曽有の潮流が起きている。
米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」最新号は巻頭論文で警鐘を鳴らした。米中枢同時テロ(2001年)以降の紛争は地域や規模が限定されていたが、もはや投入資源や兵力、参入国の拡大によって膨大な損害が出る「全面戦争の時代」に回帰したと。
「3つの圏域」で同時進行する危機
不穏な時代の予兆はすでに顕在化している。
中東ではイランや親イラン勢力が米同盟国のイスラエルと紛争状態にあり、紅海で米国艦船や西側商業船舶に執拗(しつよう)な攻撃を続ける。ロシアのウクライナ侵略では北朝鮮が派兵してウクライナ軍と交戦した。
中国の習近平国家主席は2027年までに台湾侵攻の準備を完了するよう軍部に命じたとされる。中国軍が海上封鎖に着手した時点で米国が介入しなければ、日本や韓国に死活的な海上輸送路と供給網は寸断される。
この状況に米国はどう対処するか。トランプ次期政権入りをうかがう専門家の主張からは、バイデン現政権が続けてきたウクライナへの軍事支援を縮小し、台湾防衛に兵器をシフトさせる戦略転換が浮かび上がる。
代表格はエルブリッジ・コルビー元国防次官補代理だ。トランプ前政権の国防戦略起草に関わった対中強硬派の論客である。コルビー氏は7月、シンクタンクの行事で「誰が次の大統領に選ばれても、中国が台湾を攻撃する事態に備えなければならない。われわれには十分な時間が残されていない」と警告した。
米国が欧州や中東の紛争に「くぎ付け」となれば、米戦略資源は消耗され、空白が生じる。中国はその隙を突いて台湾侵攻に動く可能性があるとし、米国はアジアに集中すべきだとコルビー氏は訴えた。
7日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルによれば、ペンス前副大統領の補佐官だったキース・ケロッグ氏とトランプ前大統領の副補佐官だったフレッド・フライツ氏は今年に入り、「ウクライナがロシアとの停戦交渉に応じるまで兵器供与を保留する」ことをトランプ氏に提案した。
中露朝イランは連携…大きなリスク
政権移行チームは台湾シフトへの本格的な準備に入った可能性があるが、それには大きなリスクも伴う。
プーチン氏に果実を与える形でのウクライナ停戦は国際秩序を大きく傷つけ、別の侵略を誘発しかねない。中露朝とイランはすでに連携を深めているため、中国の侵攻に便乗して北朝鮮が朝鮮半島で軍事行動を起こしたり、ロシアが中朝の側面支援に動いたりする「同時紛争」の危険もある。
プーチン氏がウクライナにとどまらず、東欧やバルト三国に兵を進めるとの懸念も根強い。
第二次大戦はナチス・ドイツのポーランド侵攻(1939年)で始まったが、発端は38年、英仏がチェコスロバキアの一部割譲をドイツに認めたミュンヘン会議とされる。チェンバレン英首相の「宥和(ゆうわ)的態度」で歴史に汚名を残した会議を、ルーズベルト米大統領は議会の孤立主義の空気に配慮して傍観した。
現実主義外交の大家とされる国際政治学者、モーゲンソーは「合理的な対外政策だけが危険を最小限に、そして利益を最大限にする」と説いた。利益最優先の取引を得意とするトランプ氏。自ら警告する「第三次大戦突入」を回避する「合理的判断」が問われる。(ワシントン 渡辺浩生)
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